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ニューヨークの気候テック・イニシアチブ① :ニューヨーク市の気候ソリューションセンター計画

執筆者 | 2023年3月13日

ニューヨーク市政府は、気候変動の危機に対応するグローバルリーダーとなることを目指し、脱炭素政策に取り組んでいる。ニューヨークの脱炭素に向けた取り組みの中で気候テック・エコシステムにかかる代表的なイニシアチブが、ニューヨーク市マンハッタンに属するガバナーズ島の気候ソリューションセンター(Center for Climate Solutions)設立計画である。この計画は、ビル・デブラシオ前ニューヨーク市長(民主党)と、2022年1月に就任したエリック・アダムス現市長(民主党)が継続して支持している気候変動政策であり、沿岸都市のサステナブルなエコシステム構築のモデルとして期待されている。

ガバナーズ島気候ソリューションセンター設立の目的

デブラシオ前市長と、ガバナーズ島を管轄する非営利団体Trust for Governors Islandは2021年6月、ガバナーズ島に気候ソリューションセンターを設立するためのグローバルコンペを実施すると発表した。気候ソリューションセンターは、ニューヨーク市における気候変動関連のソリューションの研究・開発、実証、教育、人材育成を、さまざまな経歴を持つ市民に平等に提供する拠点として位置づけられており、7,000人以上の直接雇用と10億ドル以上の経済効果をもたらすことが期待され、アダムス市長がニューヨーク市再建計画(Rebuild, Renew, Reinvent: A Blue­print for NYC’s Economic Recovery)で掲げる気候変動政策にも組み込まれている。

ニューヨーク市が2021年6月28日付けで発表した関心表明要請に基づき、ガバナーズ島における開発用地最大33エーカーをリースして、気候変動に特化した研究・教育ハブを構築する組織に対して、資本金として最大1億5000万ドルを同市が提供することも併せて発表した。デブラジオ前市長とTrust for Governors Islandは2021年12月、提出された12件の提案のなかから、ニューヨーク市立大学(ニューヨーク州)とニュースクール大学(ニューヨーク州)、マサチューセッツ工科大学(マサチューセッツ州)、ノースイースタン大学(マサチューセッツ州)、ストーニーブルック大学(ニューヨーク州)を最終候補として選定した。

イノベーションの源泉となる人材を呼び込み育成するため、ニューヨーク市は本イニシアチブ以前から、イノベーションのエコシステム形成において、大学との連携に戦略的に取り組んできた。象徴的な事例は、応用科学技術のキャンパス新設・拡張構想によって実現したコーネルテックの誘致である。このテックキャンパスの誘致成功が、ニューヨーク市立大学との提携によるライフサイエンス・キャンパスの整備計画や今回の気候ソリューションセンター設立構想にも繋がっていると考えられる。

気候ソリューションセンター最終候補3件の提案概要

気候ソリューションセンター提案①:ノースイースタン大学

ノースイースタン大学が率いる「Coastal Cities Impact Team」は、ジョンズ・ホプキンス大学(メリーランド州)、ウッズホール海洋研究所(マサチューセッツ州)、東京大学(日本)、インペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)、プエルトリコ大学マヤグエス校(プエルトリコ)等をパートナーとしている。同チームは、ニューヨーク市民と世界各国の研究者が協力できるような気候ソリューション研究センターをガバナーズ島に設立することを提案している。同センターは、沿岸の都市やコミュニティをサステナブルでレジリアントにするアイデアや発明を推進することを使命とし、研究・ラボスペース、スタートアップ企業と起業家向けのコワーキングスペース、宿泊施設、インタラクティブな液晶ディスプレイを備えた一般展示ホール等で構成される。また、ノースイースタン大学は同センターを通じて、ニューヨーク市民のための気候変動関連雇用のパイプラインとなるような教育・キャリア指導を強化するため、既存の共同教育(Cooperative Education)プログラムを拡充する計画も盛り込まれている。[1]

気候ソリューションセンター提案②:ストーニーブルック大学

ストーニーブルック大学の提案する「New York Climate Exchange」は、ワシントン大学(ワシントン州)、オックスフォード大学(英国)、ブルックヘブン国立研究所(ニューヨーク州)、IBM(ニューヨーク州)、General Electric(マサチューセッツ州)等の産学官パートナーで構成されている。New York Climate Exchangeは、沿岸都市のサステナビリティと環境正義に焦点を置いたイノベーションキャンパスであり、研究・ラボスペース、教室、展示室、グリーンハウス、宿泊施設、会議センター等で構成される。また、同キャンパスには、気候ソリューションを開発するプロジェクトやベンチャー企業を支援するアクセラレーター(Research and Technology Accelerator)が設置されるほか、グリーン雇用関連の訓練や継続教育、コンペやフェローシップ、インターンシップ等のプログラムも用意される計画となっている。[2]

気候ソリューションセンター提案③:ニューヨーク市立大学とニュースクール大学

ニューヨーク市立大学とニュースクール大学が主導する「Climate Center Consortium(C3)」は、コロンビア大学(ニューヨーク州)、ニューヨーク大学(ニューヨーク州)、科学と芸術の発展のためのクーパー・ユニオン(ニューヨーク州)、バーナード・カレッジ(ニューヨーク州)、マサチューセッツ工科大学、ローカルの非営利団体や環境団体等をパートナーとする、ニューヨーク周辺の大学と組織が中心のコンソーシアムである。C3は、ガバナーズ島を気候関連ソリューションの学際的研究、プロトタイプ開発、実用化に特化した「生きた研究所(living laboratory)」として活用することを目標としており、同島にある複数の歴史的建物を再利用し、教室、ラボスペース、宿舎、会議室、集会所等を設置し、野外調査、森林研究、デモを行うサイトも整備する予定である。また、C3の構想する研究所では、学位授与課程、キャリア指導、継続教育、教員免許取得等のプログラムが用意される。[3]

以上のように本コンペティションには世界中から様々な大学、研究機関、団体、企業が参加している。グローバルで最先端の研究環境が整備され世界の知が集まることで、科学的発見を商業化させるスタートアップの創出、新技術を探索する大企業との新連携、そして、社会実装への発展も予感させる。最終選考結果は2023年初旬に発表される見込みと一部ウェブ記事で伝えられている。[4]

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