北米特集記事

ニューヨーク市のテック企業集積と地域特性:タイムズスクエア

執筆者 | 2021年5月11日 | ニューヨーク市のテック企業集積と地域特性, 特集記事

90年代前のタイムズスクエアを知る人にとって、大きな企業に勤務するホワイトカラーワーカーがタイムズスクエアに通勤する日が来るとは想像できなかったと言っても過言ではない。その当時は風俗系の店が立ち並び、麻薬中毒者が往来し治安も悪かった。42丁目と8番街のポートオーソリティ・バスターミナルの利用者は犯罪に巻き込まれないよう周りに注意を払って歩いていた。

2010年のThe New York Timesの記事によると、タイムズスクエア再生の発端は市や州政府、不動産デベロッパーや企業が関わり1980年からタイムズスクエア再生プロジェクトが開始された。固定資産税減額措置やゾーニングを変更し高層ビルの建築許可などが施されたのである(1)。1994年にはディズニー社がブロードウェイのニューアムステルダム劇場(New Amsterdam Theater)の復元に同意(2)。荒廃していた他の劇場の復元も始まっていく。その甲斐もあり2010年の観光客は1993年から74%アップし、ビル一階のリテイルフロアの年間賃料が1,400ドルに届く物件も現れた。荒廃したエリアだったタイムズスクエアは観光客を呼び家族で訪れても安心なエリアとなったのだ。

オフィスビルに関してはThe New York Timesビルがバスターミナルの前に2007年に完成。一階にはMUJIのタイムズスクエア店が入っている。天井が高いビルへの人気の高まりから、同ビルも天井を高くし床から天井の総ガラス張りのビル。2010年には11 Times Squareが完成。天井高を高くし大きな窓からふんだんの外光が入るビルになる。同ビルにはマイクロソフト社のオフィスも入る。1999年に完成した4 Times SquareはConde Nastビルとして知られNasdaqや大手弁護士事務所もテナントになる。同ビルデベロッパー、Durst社の資料によると1億5千万ドル をかけて行われた改築は2018年に完成しビル名をOne Five One(151 W 42nd Street)に変え新しさをアピール(3)。テナントアメニティをビル内に設けミシュランスターシェフが監修するフードホールや、柱の数を減らしオープンスペースをアピールしたフロア、テナントが利用できるテラスなどを設ける。TikTokが2020年にオフィスリーシングの契約を結んだのはこのビルである。CoStar Dataによると2020年タイムズスクエアのオフィス賃料は年間平均1平方フィート当たり79.45ドル。

タイムズスクエアはグランドセントラル駅を使うワーカーにとってもアクセスがよく観光客で溢れ活気がある。また6番街近くのビルにとってブライアント公園は一つのセールスポイントとなっている。

(1) Charles V. Bagli, After 30 years, Times Square rebirth is complete, The New York Times, December 3, 2010
(2) Jonathan Weber, Revival on Broadway: With the help of Walt Disney Co., Times Square is staging a comeback. But some fear the loss of the district’s soul., Los Angeles Times, June 19, 1994
(3) https://www.durst.org/properties/One-Five-One

 

タイムズスクエアに立地する主なテック企業オフィス:

TikTok、Salesforce、Adobe、Microsoftなど

※記載内容は、2021年3月31日時点の情報。

 

【関連ページ】

 

【執筆者】

Miki-Hall Motegi / 茂木ホール美紀, Whitebox CRE Solutions, President.

神奈川県茅ヶ崎市生まれ。1990年にニューヨークに渡る。全日空ニューヨーク支店で北米予算とプロモーションを担当。第二子出産後に、日本政府観光局(JNTO)のニューヨーク支店で国際会議誘致を担当する。夫の仕事の関係で2011年から3年半を南麻布で過ごした後、2014年の夏にニューヨークに戻りミレニアル世代とジェンZの母親達のワークライフバランスの実現に向けての姿勢と葛藤、また仕事に対する考え方の変化などについて育った環境や人種も異なる母親達に取材をする。

2016年にIT企業やスタートアップをクライアントにもつ米系商業不動産リーシングファーム、ヴァイカスパートナーズに入りオフィス仲介業をする傍ら、商業不動産のランドスケープの変化からミレニアル世代の特徴と働き方への意識の変化を分析。JETRO IPA ニューヨーク主催の「ニューヨークスタートアップエコシステム」の日本セミナーでは、同市スタートアップエコシステムに関わる欧米人6人と共にスピーカーとして参加。その後もオフィス形態やデザイン、オフィス立地の変化などからミレニアル像を分析する講演を行う。2020年に1月にWhitebox CRE Solutionsを設立。イノベーションと空間をテーマに、コワーキングスペースやイノベーションハブのツアー、また商業不動産やプロップテック(プロパティーテクノロジー)の動向について講演や執筆を始める。新型コロナ禍でリモートワークが浸透する中、新たな日常での働き方とワークプレイスについて調査を続けている。現在ニューヨークのブルックリン地区に高校卒業前の息子と愛犬ブルックリン、そして夫と暮らす(長女は大学寮にいる)。

Miki-Hall Motegi / 茂木ホール美紀, Whitebox CRE Solutions, President.

北米最新特集記事

市民の足を支えるIoT事業から考える、 横浜で働くこと

市民の足を支えるIoT事業から考える、 横浜で働くこと

日本有数のビジネス都市、横浜。 開港以来、文明開化の中心地として繁栄し、鉄道や水道など“横浜発祥”と言われる技術が数多く生まれ、多くの技術・文化を受け入れ発信してきました。近年では、大企業の本社および研究開発拠点が多数集まるなど、ビジネス都市としてさらなる発展を遂げています。...

タイ国バンコク都との都市間協力を推進しています。

タイ国バンコク都との都市間協力を推進しています。

横浜市は都市づくりの経験・ノウハウと企業の技術を活用し、新興国等の都市課題解決の支援と企業の海外展開支援を目的とした「横浜の資源・技術を活用した公民連携による国際技術協力(Y-PORT事業)」に取り組んでいます。 本稿では、タイ・バンコク都との都市間連携を特集します。...

ニューヨークの気候テック・イニシアティブ②:ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)のスタートアップ支援

ニューヨークの気候テック・イニシアティブ②:ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)のスタートアップ支援

ニューヨークでは、州全体のクリーンエネルギー推進や気候テックスタートアップ支援において、州によって設立された公益法人ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)が大きな役割を果たしている。また、ボストンで重層的な気候テック支援環境が見られるように、ニューヨークにおいてもNYSERDAだけでな...

ニューヨークの気候テック・イニシアチブ① :ニューヨーク市の気候ソリューションセンター計画

ニューヨークの気候テック・イニシアチブ① :ニューヨーク市の気候ソリューションセンター計画

ニューヨーク市政府は、気候変動の危機に対応するグローバルリーダーとなることを目指し、脱炭素政策に取り組んでいる。ニューヨークの脱炭素に向けた取り組みの中で気候テック・エコシステムにかかる代表的なイニシアチブが、ニューヨーク市マンハッタンに属するガバナーズ島の気候ソリューションセンター(Center...

ボストンの気候テック・エコシステム⑤:気候テック・スタートアップへの重層的な支援

ボストンの気候テック・エコシステム⑤:気候テック・スタートアップへの重層的な支援

前項まで、ボストンの気候テック・エコシステムの主要なハブとして、グリーンタウン・ラボ、MIT、マサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センターを取り上げてきたが、ボストンを中心にマサチューセッツ州内には、気候テック・スタートアップを支えるまだまだ多くの支援機関やプログラムが存在する。【インキュベータ...

北米スタートアップ本場のピッチを見ながら学ぶ、協働に向けた対話のヒント ~海外とのオープンイノベーション促進に向けたセミナー企画・第2弾~

北米スタートアップ本場のピッチを見ながら学ぶ、協働に向けた対話のヒント ~海外とのオープンイノベーション促進に向けたセミナー企画・第2弾~

北米地域は世界ベンチャー投資のうち8割以上が集まるイノベーションの中心で、近年益々多くの日本企業が、最先端の技術・サービスを生み出す多くのスタートアップと連携・協業を図り、自社の新たなビジネス創出に向けて活動しています。北米スタートアップとの協業・オープンイノベーションを成功させるには、単なる言語の...

横浜・LINK-J ライフサイエンス・ラウンジ@NYC第7回セミナー 2024年を振り返る、米国ライフサイエンス市場の最新動向と2025年の展望

横浜・LINK-J ライフサイエンス・ラウンジ@NYC第7回セミナー 2024年を振り返る、米国ライフサイエンス市場の最新動向と2025年の展望

横浜市米州事務所と LINK-Jとの連携による「横浜・LINK-Jライフサイエンス・ラウンジ@NYC」として、2022年12月の第1回セミナーから米国ライスサイエンス市場に関する現地の最新情報をお届けしております。第7回セミナーでは、NYCを拠点に活動する横浜市ライフサイエンスサポーターである栄木憲和氏及び武田秀俊氏に加え、ニューヨーク拠点の調査・コンサルティング会社のクリス・ビックリー氏をお招きし、米国ライフサイエンス市場の1年間を振り返り、米国大統領選挙後となる2025年の展望についてお届けします。

山中・横浜市長が国連機関の共催によりバンコクで行われたハイレベル政策対話でスピーチをしました

山中・横浜市長が国連機関の共催によりバンコクで行われたハイレベル政策対話でスピーチをしました

10月15日、国連開発計画(UNDP)、国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)、国連人間居住計画(UN-Habitat)、バンコク都(BMA)の共催で、ハイレベル政策対話「未来へのリーダーシップ:アジア太平洋地域の持続可能でレジリエントかつ公平な都市のための都市ガバナンスの実践強化」がタイ...

Yokohama Innovation Night開催 ~グローバル・スタートアップとの協業の成功と失敗から学ぶ~(11/18)

Yokohama Innovation Night開催 ~グローバル・スタートアップとの協業の成功と失敗から学ぶ~(11/18)

海外スタートアップとのオープンイノベーションに取り組む、又は関心のある日本企業の皆様などを対象にしたセミナーイベントを開催します。日本企業・海外スタートアップ両方の視点から、海外のスタートアップとの連携におけるヒントや失敗例、海外の最新情報やグローバルな協業をする際のコツなどについて取り上げ、セミナー後にはネットワーキングも実施します。海外のスタートアップとの連携や海外のイノベーションの動向に興味・関心のある皆様のご参加をお待ちしています。