90年代前のタイムズスクエアを知る人にとって、大きな企業に勤務するホワイトカラーワーカーがタイムズスクエアに通勤する日が来るとは想像できなかったと言っても過言ではない。その当時は風俗系の店が立ち並び、麻薬中毒者が往来し治安も悪かった。42丁目と8番街のポートオーソリティ・バスターミナルの利用者は犯罪に巻き込まれないよう周りに注意を払って歩いていた。
2010年のThe New York Timesの記事によると、タイムズスクエア再生の発端は市や州政府、不動産デベロッパーや企業が関わり1980年からタイムズスクエア再生プロジェクトが開始された。固定資産税減額措置やゾーニングを変更し高層ビルの建築許可などが施されたのである(1)。1994年にはディズニー社がブロードウェイのニューアムステルダム劇場(New Amsterdam Theater)の復元に同意(2)。荒廃していた他の劇場の復元も始まっていく。その甲斐もあり2010年の観光客は1993年から74%アップし、ビル一階のリテイルフロアの年間賃料が1,400ドルに届く物件も現れた。荒廃したエリアだったタイムズスクエアは観光客を呼び家族で訪れても安心なエリアとなったのだ。
オフィスビルに関してはThe New York Timesビルがバスターミナルの前に2007年に完成。一階にはMUJIのタイムズスクエア店が入っている。天井が高いビルへの人気の高まりから、同ビルも天井を高くし床から天井の総ガラス張りのビル。2010年には11 Times Squareが完成。天井高を高くし大きな窓からふんだんの外光が入るビルになる。同ビルにはマイクロソフト社のオフィスも入る。1999年に完成した4 Times SquareはConde Nastビルとして知られNasdaqや大手弁護士事務所もテナントになる。同ビルデベロッパー、Durst社の資料によると1億5千万ドル をかけて行われた改築は2018年に完成しビル名をOne Five One(151 W 42nd Street)に変え新しさをアピール(3)。テナントアメニティをビル内に設けミシュランスターシェフが監修するフードホールや、柱の数を減らしオープンスペースをアピールしたフロア、テナントが利用できるテラスなどを設ける。TikTokが2020年にオフィスリーシングの契約を結んだのはこのビルである。CoStar Dataによると2020年タイムズスクエアのオフィス賃料は年間平均1平方フィート当たり79.45ドル。
タイムズスクエアはグランドセントラル駅を使うワーカーにとってもアクセスがよく観光客で溢れ活気がある。また6番街近くのビルにとってブライアント公園は一つのセールスポイントとなっている。
(1) Charles V. Bagli, After 30 years, Times Square rebirth is complete, The New York Times, December 3, 2010
(2) Jonathan Weber, Revival on Broadway: With the help of Walt Disney Co., Times Square is staging a comeback. But some fear the loss of the district’s soul., Los Angeles Times, June 19, 1994
(3) https://www.durst.org/properties/One-Five-One
タイムズスクエアに立地する主なテック企業オフィス:
TikTok、Salesforce、Adobe、Microsoftなど
※記載内容は、2021年3月31日時点の情報。
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【執筆者】
Miki-Hall Motegi / 茂木ホール美紀, Whitebox CRE Solutions, President.
神奈川県茅ヶ崎市生まれ。1990年にニューヨークに渡る。全日空ニューヨーク支店で北米予算とプロモーションを担当。第二子出産後に、日本政府観光局(JNTO)のニューヨーク支店で国際会議誘致を担当する。夫の仕事の関係で2011年から3年半を南麻布で過ごした後、2014年の夏にニューヨークに戻りミレニアル世代とジェンZの母親達のワークライフバランスの実現に向けての姿勢と葛藤、また仕事に対する考え方の変化などについて育った環境や人種も異なる母親達に取材をする。
2016年にIT企業やスタートアップをクライアントにもつ米系商業不動産リーシングファーム、ヴァイカスパートナーズに入りオフィス仲介業をする傍ら、商業不動産のランドスケープの変化からミレニアル世代の特徴と働き方への意識の変化を分析。JETRO IPA ニューヨーク主催の「ニューヨークスタートアップエコシステム」の日本セミナーでは、同市スタートアップエコシステムに関わる欧米人6人と共にスピーカーとして参加。その後もオフィス形態やデザイン、オフィス立地の変化などからミレニアル像を分析する講演を行う。2020年に1月にWhitebox CRE Solutionsを設立。イノベーションと空間をテーマに、コワーキングスペースやイノベーションハブのツアー、また商業不動産やプロップテック(プロパティーテクノロジー)の動向について講演や執筆を始める。新型コロナ禍でリモートワークが浸透する中、新たな日常での働き方とワークプレイスについて調査を続けている。現在ニューヨークのブルックリン地区に高校卒業前の息子と愛犬ブルックリン、そして夫と暮らす(長女は大学寮にいる)。