北米特集記事

カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley:UCB)前編

執筆者 | 2021年8月25日 | 大学スタートアップエコシステム, 特集記事

UCB(UCバークレー校)は、10大学で構成される、カリフォルニア大学システムの発祥校であり(1)、世界トップクラスの大学として著名である。直近のUS Newsによる2021年グローバル大学ランキングでは、ハーバード大学(Harvard University)、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology:MIT)、スタンフォード大学(Stanford University)に次ぎ世界4位、また公立大学としてはトップに立っている(2)。

UCB(UCバークレー校)はスタンフォード大学とともに、スタートアップの聖地として名高い、カリフォルニア州シリコンバレーやベイエリアのイノベーションエコシステムにおいて、中核的な大学としてのプレゼンスを高めてきた。例えば、PitchBook Dataが発表している「スタートアップ企業(3)の創設者を生み出したトップ50の学部プログラム」ランキング2020年版(4)で、UCBは1位のスタンフォード大学に続き、2位(1,365名)となっている。また、UCB発表によれば、1988年以降250社を超えるスタートアップ企業の知的財産権の実用化に資金を提供、UCBライセンスを基に実用化された製品数は730を超えている(5)。

UCBのスタートアップエコシステム

こうした中、UCB(UCバークレー校)にはスタートアップを志す学生や研究者などが多く集まってくる。そうした人材を支えるため、UCBでは包括的な支援を行うことができるスタートアップエコシステムを発展させてきた(6)。その主要プレイヤーについて、同大学で起業支援や企業連携等に携わるOffice of Intellectual Property & Industry Research Alliances(IPIRA(7)、後編参照)が「Innovation & Entrepreneurship at UC Berkeley」にまとめ、紹介している(8)。その中には、起業家教育、起業・知財支援、新製品・R&Dサポート、資金サポート、法律アドバイス、人材リクルート等が含まれている。2021年8月現在、支援内容別にそれぞれリストアップされているプログラム・組織数をまとめると以下の通り。特に、大学として、起業家教育プログラムが充実していることに加え、資金調達支援、スタートアップ支援、新製品研究開発支援についても、それぞれ10を超えるオプションが提供されている。

UCB Entrepreneurship Ecosystem

注:支援内容別の丸に囲まれた数字は、各内容に含まれる具体的なプログラム・組織数を示す。
出典:UCB “Innovation & Entrepreneurship at UC Berkeley”を基に作成。

これらに加え、UCB(UCバークレー校)「Berkeley Gateway to Innovation」ウェブサイトには、9つの同窓生ネットワークのほか、「Innovation & Entrepreneurship at UC Berkeley」に含まれていないプログラム・組織なども紹介されており、同エコシステムが日々変化・成長していることもうかがえる(9)。

これらのプログラム・組織のうち、代表的な例には以下がある(10)。

プログラム 概要
Haas Entrepreneurship Program(11) Academic Programs(教育プログラム)及び資金支援。同大学ビジネススクールのHaas School of Businessが提供する起業家育成プログラム。
Fung Institute(12) 教育プログラム。同大学工学部のBerkeley College of Engineeringに設立された機関で、工学者及び科学者のリーダーを育成する修士プログラムとフェローシップを提供する。
Skydeck(13) Startup Support(スタートアップ支援)及び資金支援。UCB出身のスタートアップを中心に支援を行うアクセラレーター・インキュベータープログラム。
QB3(14) スタートアップ支援。スタートアップ向けリソースとして、資金、アクセラレータープログラム、インキュベーション施設等を提供する非営利団体として運営されている(15)。
CITRIS Foundry(16) スタートアップ支援。ディープテック(17) 関連スタートアップを支援するアクセラレータープログラム。
Bakar Fellows(18) New Product R&D Support(新製品研究開発支援)。STEM(科学・技術・工学・数学、理系)分野におけるUCB教員及びその研究グループの起業支援を行う。
Signatures Innovation Fellows(19) Funding Support(資金支援)。データ科学・ソフトウェア開発分野のイノベーション創出を目指すUCB研究者を支援する。

UCBを代表するアクセラレーター・インキュベーター:SkyDeck

こうしたUCB(UCバークレー校)スタートアップエコシステムの中でも、特に有名な取り組みの1つが、SkyDeckである。SkyDeckは、同大学のビジネススクールHaas School of Businessと工学部College of Engineering、研究部門副総長オフィス(Vice Chancellor for Research Office)の合同事業として2012年に設立されたアクセラレーター・インキュベータープログラムである(20)。50万人を超えるUCB卒業生のネットワークと産業パートナーのリソースを活用し、スタートアップ企業の成功を後押ししている(21)。

同プログラムに参加するスタートアップ企業には、民間投資パートナーであるBerkeley SkyDeck Fundから投資が行われ、利益はUCBと折半する仕組みとなっている。なお、Berkeley SkyDeck Fundはベイエリアで最も活発なシード投資家の一つであり、過去3年間に100社以上に投資を行った実績を持つ(22)。またSkyDeckは、SkyDeckスタートアップ企業への投資に意欲的なアーリーステージ投資家と密接に連携しており、最近のプログラムでは、シリコンバレーに拠点を置く投資会社トップ100社を招待したほか、SkyDeckスタートアップ企業の技術を紹介するデモデー(Demo Day)には650を超える投資家が集まっている(23)。

SkyDeckが提供するプログラムは、①コホートプログラム(Cohort Program)、②グローバルイノベーションパートナープログラム(Global Innovation Partner:GIP)、③ホットデスクプログラム(HotDesk Program)の3種類である。

①コホートプログラムは、シリコンバレーのベンチャーキャピタルから十分な資金を得る準備が整っているとみなされるスタートアップ企業約20社に対して、10万5,000ドルが提供されるほか、SkyDeck専属のリード顧問(Lead Advisor)、SkyDeck内の専用ワークスペース、デモデーへのアクセスが6か月に亘り提供される。②GIPでは、3か月に亘りスタートアップ企業に対して、ワークショップ、ネットワーキングイベント、産業界専門家とのコンサルティング、ショーケースイベントへのアクセスが提供される。そして、③ホットデスクプログラムでは、コホートプログラムに参加するには次期尚早と思われるスタートアップ企業や、学生や教員から投資を受けたスタートアップ企業に対して、SkyDeckのコワーキングスペースやワークショップへのアクセスや、SkyDeck専属顧問(SkyAdvisors)と相談する機会等が与えられる(24)。

また、SkyDeckでは国内のスタートアップ企業だけではなく、グローバルファウンダーズプログラム(Global Founder’s Program)を通じて、海外に拠点を置く有望なアーリーステージのスタートアップ企業によるシリコンバレーへの移転を支援している。同プログラムに応募する海外企業の約75%は、SkayDeckのコホートプログラムに選定される以前に自国で投資を受けており、同じく同プログラムに応募する海外企業の約59%は、プログラム参加以前に自国で収益を上げている。グローバルファウンダーズプログラムを通じて成功を収めた企業の例としては、アジアからはAIを活用した細胞分析・ 分離技術開発企業シンクサイト(ThinkCyte:日本)、欧州からはノイズキャンセリングアプリ開発企業Krisp(アルメニア)、中南米からは衛星通信企業Skyloom(アルゼンチン)等があり(25)、各社ともシリコンバレーに事業拠点を拡大している。

新たに誕生するインキュベーション施設:Bakar Labs

SkyDeckに代表されるように充実したアクセラレーター・インキュベータープログラムを複数提供しているUCB(UCバークレー校)であるが、シリコンバレーのテクノロジー業界の勢いに呼応するようにプログラム拡充に余念がない。同校は2021年5月、新しいインキュベーション施設であるBaker Labsを同年末に開設すると発表した(26)。同施設は、ライフサイエンスと物理学、工学、データ科学といった研究分野を組み合わせたUCBの新しい学際的なスタートアップ支援イニシアチブであるBakar BioEnginuity Hub(BBH)の一環であり、QB3がその運営を担当する。Baker Labsには、最大80社のスタートアップ企業を収容できるオフィス・研究所スペースと、各種実験設備が用意される予定である。対象企業はアーリーステージのライフサイエンス系スタートアップ企業であり、UCBとこれまで関係のなかった企業も歓迎されている(27)。

主要組織のリンク(アクセス:2021年8月20日)

出典(アクセス:2021年6月29日)

  1. https://www.lib.berkeley.edu/uchistory/pubs_resources/papers_books/ucbriefhistory/chapter41.html
  2. https://www.usnews.com/education/best-global-universities/rankings
  3. 2006年1月1日から2020年8月31日までの間に最初の資金調達ラウンドを調達した企業を含む
  4. https://pitchbook.com/news/articles/pitchbook-universities-2020
  5. https://vcresearch.berkeley.edu/innovation/highlights
  6. https://ipira.berkeley.edu/entrepreneurship-ecosystem
  7. https://ipira.berkeley.edu/
  8. https://ipira.berkeley.edu/sites/default/files/shared/docs/Berkeley-I%26E-Ecosystem.pdf
  9. https://begin.berkeley.edu/
  10. https://vcresearch.berkeley.edu/innovation
  11. https://entrepreneurship.berkeley.edu/
  12. https://funginstitute.berkeley.edu/a
  13. https://skydeck.berkeley.edu/
  14. https://qb3.org/
  15. UCB以外にも、カリフォルニア大学サンフランシスコ校及びサンタクルーズ校とも連携している。https://qb3.org/our-story
  16. https://citrisfoundry.org/
  17. 差別化された高度な科学・エンジニアリング技術のこと
  18. https://vcresearch.berkeley.edu/bakarfellows/about
  19. https://vcresearch.berkeley.edu/signatures/about
  20. https://newsroom.haas.berkeley.edu/skydeck%E2%80%99s-new-exec-director-laser-focused-startups/
  21. https://skydeck.berkeley.edu/apply/
  22. https://skydeck.berkeley.edu/
  23. https://skydeck.berkeley.edu/gfp/
  24. https://skydeck.berkeley.edu/apply/;https://skydeck.berkeley.edu/program/
  25. https://skydeck.berkeley.edu/gfp/
  26. https://news.berkeley.edu/2021/05/11/bakar-bioenginuity-hub-berkeleys-bold-new-home-for-innovation-entrepreneurship/;https://bakarlabs.berkeley.edu/
  27. https://news.berkeley.edu/2021/05/11/bakar-bioenginuity-hub-berkeleys-bold-new-home-for-innovation-entrepreneurship/

北米最新特集記事

タイ国バンコク都との都市間協力を推進しています。

タイ国バンコク都との都市間協力を推進しています。

横浜市は都市づくりの経験・ノウハウと企業の技術を活用し、新興国等の都市課題解決の支援と企業の海外展開支援を目的とした「横浜の資源・技術を活用した公民連携による国際技術協力(Y-PORT事業)」に取り組んでいます。 本稿では、タイ・バンコク都との都市間連携を特集します。...

ニューヨークの気候テック・イニシアティブ②:ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)のスタートアップ支援

ニューヨークの気候テック・イニシアティブ②:ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)のスタートアップ支援

ニューヨークでは、州全体のクリーンエネルギー推進や気候テックスタートアップ支援において、州によって設立された公益法人ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)が大きな役割を果たしている。また、ボストンで重層的な気候テック支援環境が見られるように、ニューヨークにおいてもNYSERDAだけでな...

ニューヨークの気候テック・イニシアチブ① :ニューヨーク市の気候ソリューションセンター計画

ニューヨークの気候テック・イニシアチブ① :ニューヨーク市の気候ソリューションセンター計画

ニューヨーク市政府は、気候変動の危機に対応するグローバルリーダーとなることを目指し、脱炭素政策に取り組んでいる。ニューヨークの脱炭素に向けた取り組みの中で気候テック・エコシステムにかかる代表的なイニシアチブが、ニューヨーク市マンハッタンに属するガバナーズ島の気候ソリューションセンター(Center...

ボストンの気候テック・エコシステム⑤:気候テック・スタートアップへの重層的な支援

ボストンの気候テック・エコシステム⑤:気候テック・スタートアップへの重層的な支援

前項まで、ボストンの気候テック・エコシステムの主要なハブとして、グリーンタウン・ラボ、MIT、マサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センターを取り上げてきたが、ボストンを中心にマサチューセッツ州内には、気候テック・スタートアップを支えるまだまだ多くの支援機関やプログラムが存在する。【インキュベータ...

ボストンの気候テックエコシステム④:気候テックの実証促進「マサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センター」

ボストンの気候テックエコシステム④:気候テックの実証促進「マサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センター」

気候テックの多くは、商用化までに長い年月を要するため、民間投資のみで成長させることが難しく、公的な支援が必要とされている。ボストンの気候テックへの政府系支援で大きな役割を担っているのが、準公的機関であるマサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センター(MassCEC)である。[1]...

市内企業の興栄商事がタイでセミナー開催!

市内企業の興栄商事がタイでセミナー開催!

2024年2月13日(火)、市内企業の興栄商事株式会社が「タイにおける電気・電子機器廃棄物のITAD事業及びリサイクル事業に関する説明会」をホリデイインバンコクスクンビットセミナー会場開催しました。...