UCBでは前編で見てきたような、アクセラレーターやインキュベーター等の学内リソースを活用したスタートアップ支援に加え、シリコンバレーに集まる企業や組織との連携を通じて、同大学で誕生する新たなアイディアや技術を、社会にいち早く展開できるような支援体制も用意されている。後編では、こうした地域ステークホルダーとの連携に焦点をあて、特に企業との連携の橋渡し役として重要な役割を担っているUCBのOffice of Intellectual Property & Industry Research Alliances(IPIRA)の取り組みや、UCBとバークレー市によるスタートアップ誘致パートナーシップについて紹介する。

企業連携の橋渡し役IPIRA

UCBにおいて、スタートアップ支援につながる産業界との橋渡し役を担っているのがIPIRAである。2004年に設立されたIPIRAは、UCB研究部門(Berkeley Research)傘下の研究管理部門(research administration offices)のひとつである(1)。IPIRAには、UCBでの研究を支援する産業界スポンサーとの交渉やプロジェクトの運営を行うIndustry Alliances Office(IAO)と、UCBで開発された特許申請が可能なイノベーションや著作権で保護されるべきソフトウェアの公開や知的財産権のライセンシング業務等を行うOffice of Technology Licensing(OTL)が含まれており、特にスタートアップ支援と関わりが強いのが前者のIAOである。

IAOは産業界との連携を通じて、UCBの研究・教育活動等を促進することを目的として設立された。設立当初から、企業スポンサー研究を獲得することによる収益を増やしたり、OTLとの協力の下、産業界との連携研究を通じてUCB知的財産をさらに発展させたりといった取り組みに特に重点を置いてきた。あわせて、連邦政府、州政府、非営利団体等との研究に関連した様々な契約にも対応してきた。こうした契約業務に加え、IAOはこれらのパートナーとの長期的・戦略的連携関係の構築にも力を注いできた。

近年、IAOは同大学のスタートアップ支援でも重要な役割を期待されるようになっている。その一環として、UCBのスタートアップエコシステムを活用し、その活動を支援するような、大学と企業等を連携させるプログラムの設計、交渉、契約支援等を行うサービス「イノベーション・サービス(Innovation Services)」を提供している(2)。代表的なものとして、2017年にパイロットプログラム(3)として開始され、2019年に継続が決定された「Research Infrastructure Commons – temporary use:RIC-t(4)」プログラムがある。従来、UCBの大学研究室では、商業的研究開発を実施する許可を得るには、かなり多くの煩雑な問題に対処しなければならなかった。しかし、RIC-tプログラムの開発により、条件や厳格な監督・ルールなどが整備され、UCBから誕生した、製品販売前の初期段階にいるスタートアップ企業が、大学研究室で短期的に新製品の研究開発を実施できるようになった。

そのほか、同サービスにより設置されたプログラムには、前編で紹介したUCBを代表するアクセラレーター・インキュベータープログラム「Skydeck」のコーポレートアフィリエイトプログラムのほか、同大学工学部(College of Engineering)のSutardja Center for Entrepreneurship & Technology(SCET(5))のグローバルパートナーシッププログラム(Global Partnership Program(6))や、UCB関係者から誕生したスタートアップ企業と大手企業のネットワーキングや連携を支援する「Cal Company Connector(7)」なども含まれる。

 なお、UCBは2019年、新たに最高イノベーションアントレプレナーシップ責任者(Chief Innovation and Entrepreneurship Officer:CIEO)を設置すると発表した。これにより、CIEOの下にIPIRAが位置付けられることになった。初代CIEOとして、同大学ビジネススクールHaas School of Business元学部長であるRich Lyons教授が任命されている(8)。新CIEOのリーダーシップの下、教職員や学生、スタッフなどの学内関係者とも協力し、産業界等のステークホルダーとの付加価値の高い連携関係を築き、同大学のスタートアップエコシステムのさらなる発展を目指す。

 UCBとバークレー市によるスタートアップ誘致パートナーシップ

このほかUCBでは、地元自治体や国立研究所をはじめとする地域のステークホルダーと連携して、スタートアップを誘致するといった取り組みも進めている。具体的には、UCBは2012年よりバークレー市経済開発局(City of Berkeley Office of Economic Development)と、UCBの長年にわたる研究パートナーで地理的にも隣接し、多くのUCB卒業生の就職先でもあるローレンス・バークレー国立研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory:LBNL(9))、ダウンタウンバークレー協会(Downtown Berkeley Association)、バークレー商工会議所(Berkeley Chamber of Commerce)と共に、バークレーをUCBやLBNLからスピンアウトするスタートアップ企業にとってより魅力的な場所にするためのパートナーシップBerkeley Startup Clusterを展開している(10)。

Berkeley Startup Clusterの主な目的は、①バークレーを拠点とするイノベーターに対して起業に必要なリソースを提供する、②バークレーがスタートアップ企業に適した場所であることを売り込む、③質の高い商業不動産や研究スペースの数を増やす、④イノベーションセクターにおける多様性を高めコミュニティ・エンゲージメントを促進する、⑤バークレーで活動する起業家向けのイベントやネットワークの質と量を高める、⑥イノベーションセクターのニーズに沿ったローカルインフラを開発する、⑦バークレーのイノベーションとスタートアップ企業の成長を促進するような政策を策定する、となっている(11)。

具体的には、Berkeley Startup Clusterはその専用サイトを通じて、地元のイノベーション関連企業を分野別にインタラクティブマップで表示し、その概要を掲載しているほか(12)、バークレーに所在するインキュベーション施設やコワーキングスペースの情報(13)、UCBのスタートアップ支援関連データベースへのリンク(14)、LBNLでの求人及びインターン募集情報、ローカル求人情報、UCB工学部、生体工学、医用生体工学のFacebookグループサイト等を紹介している(15)。なお、同サイトで紹介されているインキュベーション施設のなかには、QB3のEast Bay Innovation Centerも含まれる。同施設は、北カリフォルニアでも有数のライフサイエンス・テクノロジークラスターであるEast Bay Technology Corridorの中心に位置し、広さ8000平方フィート(約743平方メートル)の敷地内に、研究室やオフィススペース、会議室、各種研究用設備等が備わっており、2021年8月16日時点で10社程度のスタートアップ企業が利用している(16)。

カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley:UCB):前編

主要組織のリンク(アクセス:2021年8月20日)