北米特集記事

カリフォルニア州サンマテオ郡(San Mateo County, CA)

執筆者 | 2019年7月19日 | 特集記事, 米国産業クラスター情報

サンマテオ郡の地理と交通

カリフォルニア州サンフランシスコ半島にあり、シリコンバレーの一角を成す サンマテオ郡は、北部はサンフランシスコ郡、南部はサンタクララ郡とサンタクルーズ郡に接している(Google Map)。郡都はレッドウッド市(Redwood City)。サンマテオ郡には、カリフォルニア州で第2位の利用者数(2017年 )を誇るサンフランシスコ国際空港(San Francisco International Airport)がある。サンフランシスコからのサンマテオ郡へのアクセスには自動車以外にも、一部主要都市には、カルトレイン(Caltrain)とよばれる通勤列車や、ベイエリア高速鉄道(Bay Area Rapid Transit:BART)なども利用でき、非常に交通の便に優れた場所にある。

 

サンマテオ郡の統計(人口、産業)

サンマテオ郡の人口は771,410人(2017年、米センサス)で、白人の60.6%(全米:76.6%)に続き、アジア系29.6%(全米:5.8%)とアジア人が多い特徴が見られる。25歳以上にしめる最終学歴が学士卒業以上の割合は48.5%(2013-2017年)で、全米の30.9%を18ポイント近く上回っている。平均所得は105,667ドル(2013-2017年)で、全米平均の57,652ドルの約1.8倍と高所得層の多い地域となっている。

産業については、専門的・科学的・技術的サービス業や情報産業の雇用数が全産業合計に占める割合が、全米平均と比べて高い(2016年、米センサス)。

 

 

サンマテオ郡:バイオテクノロジー発祥の地

サンマテオ郡は、米国を代表するバイオ医薬クラスター地域のサンフランシスコ湾地域(San Francisco Bay Area)にある。同地域は遺伝子工学・バイオテクノロジーのニュースメディアGENによる2018年の全米トップ地域ランキング で、マサチューセッツ州ボストン・ケンブリッジ地域に続き2位となっている。

全米の中でも特にバイオ医薬品関連の雇用が集中しているのがサンマテオ郡である。米商務省経済開発局(Economic Development Administration: EDA)の助成を受け、ハーバード大学ビジネススクール(Harvard Business School)が運営するクラスターマッピングプロジェクト(Cluster Mapping)によれば、全米で2016年、最もバイオ医薬品関連雇用数が多い州はカリフォルニア州で約4.8万人、そのカリフォルニア州で最も関連雇用数が多いのがサンマテオ郡であった(約1.9万人)。

優れた研究開発力を持った世界的企業も誕生しており、例えば、バイオベンチャー大手で現在は製薬大手Rocheグループの米国オペレーション本社を担うGenentech や、HIV、インフルエンザなどの感染症治療を目的とした抗ウイルス剤開発などで世界的に有名なバイオ製薬会社Gilead Sciences などの本社はサンマテオ郡にある。そのうち、サウスサンフランシスコ市(South San Francisco)は、Genentechをはじめとして200以上のバイオテクノロジー関連企業が集積している地域であり、「バイオテクノロジー発祥の地(the Birthplace of Biotechnology)」とも呼ばれている。ライフサイエンス産業の業界団体カリフォルニア・ライフサイエンス協会(California Life Sciences Association:CLSA)もサウスサンフランシスコ市に本拠地を置いている 。また、カリフォルニア州サンディエゴを本拠とするライフサイエンス業界団体Biocomは2018年9月、サウスサンフランシスコにオフィスを開設している。

 

近年、ライフサイエンスやその他ハイテク関連企業によるサウスサンフランシスコ地域への立地ニーズが高く、空き室率が常に低い状態が続いてきた。そうした中、サウスサンフランシスコ市はライフサイエンス産業向けに不動産を提供することに特化した不動産投資信託会社(real estate investment trusts:REITs)と連携し、ライフサイエンス向けの研究・オフィス用キャンパス開発を進めてきた(例:ゲートウェイ・オブ・パシフィック:Gateway of Pacific、コーブ・アット・オイスターポイント:Cove at Oyster Pointなど)。代表的なREITsにはHCP Inc.、BioMed Realty、SKSが含まれる 。また、近隣市でもライフサイエンス向けキャンパスが建設されており、例えば、レッドウッド市(Redwood City)にあるサンフランシスコ湾周辺で最大規模のマルチテナント型キャンパス、ベイショア・テクノロジー・パーク(Bayshore Technology Park)や、メンローパーク市(Menlo Park)にあるメンローパーク研究所(Menlo Park Labs)などもある。また、Johnson & Johnson傘下のインキュベーターJLABS @ SSFをはじめとするインキュベーターやラボスペースが、サウスサンフランシスコ市などに点在している 。

サンマテオ郡の近隣には、世界的に著名なライフサイエンスの研究機関として、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco:UCSF)、スタンフォード大学(Stanford University)などがある。米国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)からの2018年助成金獲得額ランキングでは、UCSFが2位、スタンフォード大学が6位だった。このうちスタンフォード大学は、サンタクララ郡にも多くの広大なキャンパスを所有しており 、2019年にはレッドウッド市に新たなキャンパスを開設する予定。

ライフサイエンス以外では、シリコンバレーの一角を占める同地域には 、Oracle(ソフトウェア)、Electronic Arts(ゲーム)といったIT企業の本社およびキャンパスが多数集まっていることでも有名。

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