北米特集記事

カンパニー・スポットライト:ライジング・スタートアップ

執筆者 | 2019年8月28日 | カンパニースポットライト, 特集記事

ライジング・スタートアップス代表の奥西正人さんにお話を伺いました。奥西さんは、2015年に、ニューヨークにおける日系スタートアップス・コミュニティであるJapan NYC Startupsを創設し、わずか数年で、2,000人を超えるミートアップに成長させました。翌年の2016年に、イベント企画・運営、コンサルティングを行う、ライジング・スタートアップスを立ち上げ、日本とニューヨークのテックシーンの懸け橋として活躍されています。

 

―ライジング・スタートアップスの立ち上げの経緯を教えてください。

テック系のエンジニアリングの経験が自分のバックグラウンドにあります。ロサンゼルスで2年、転勤でニューヨークに移り9年、企業向けのシステム開発の仕事に携わりました。その後、世界一周の旅をするため休みを入れたのですが、その間にmeetup.comを使ってネットワーキング活動し、ニューヨークに戻ってきてからもミートアップにたくさん参加しました。それが2012年です。スタートアップ企業で働くということと、自分のアプリケーション開発能力を磨くことの二つの軸を立て、ニューヨーク発の医療系スタートアップ、ゾックドック(Zocdoc)に入りました。それからもネットワーキング活動を続けていましたが、ミートアップで日本人に会う機会がほとんどなく、そこではじめたのがJapan NYC Startupsです。1年くらい経ち、事業として行うともっと深く貢献できると思い、ゾックドックを離れ、ライジング・スタートアップスを立ち上げました。

 

―ライジング・スタートアップスではどのようなサービスを提供されていますか。

ミートアップをさらに大きなレベルで、個人会員だけでなく、企業も関われるようにするため、日米のテックシーンをつなげるイベント「イフ・カンファレンス」を企画し、これまでに3回開催しています。コンサルティングとしては、ニューヨークのテックシーンの視察ツアーや市場リサーチなどの依頼に対応しています。市場リサーチでは、現地のスタートアップ企業を掘り出し、我々の目線で、こういう企業だったら可能性があるのではないか、というインサイトを入れます。最近はニューヨークのスタートアップ企業とのコレボレーションを視野に入れた依頼が増えています。起業家から初期段階の相談を受けることもよくありますが、実際に次のステップに進まれる方は限られます。そのような中、行政が複数のスタートアップ企業を連れてくる機会やニーズが増えています。これまでニューヨークにて経済産業省と東京都のプロジェクトをお手伝いしました。参加企業がプレゼンテーションできる場を作り、ピッチしてもらうことをアウトプットとし、そのプロセスで市場リサーチ、現地視察ツアー、ピッチトレーニングのワークショップなどを組み合わせて支援します。参加のモチベーションは人によって様々ですので、参加目的やプロジェクトの趣旨に応じたオーディエンスを集めることを心がけています。

 

―ここ数年のニューヨークのスタートアップ・シーンをどのように見ていますか。

ライジング・スタートアップスを立ち上げた時点で、ニューヨークのスタートアップ・エコシステムの基盤はすでにできていました。この数年で確実にスケールアップしています。特に、SAP、サムソン、アマゾンなど力のある大企業が、ニューヨークのイノベーション・エコシステムに入り込んできています。アクセラレーターの種類、コワーキングスペースの種類も増えています。投資(資金調達)目的であれば、依然、シリコンバレーが有力ですが、ビジネス・デベロップメントが目的であれば、そのビジネスがニューヨークに合うか、市場があるか、顧客がいるかがポイントです。例えば、NewsPicksは、メディア産業が強いニューヨークに進出しました。

 

―日本についてはどうでしょうか。

日本のスタートアップ企業も、Japan NYC Startupsをはじめたころと比べるとだいぶ増えてきています。行政施策も、初めは経済産業省だけでしたが、最近は自治体からの問い合わせも結構あります。メルカリのようにドメスティックなビジネスが成長して海外に展開するという事例がでてきましたが、最初から海外でできる企業も多いと感じています。特にハードウェアです。このことはハードウェアに携さわっている人も気づいていると思います。クラウドファンディングのキックスターターなどで資金調達や市場開拓ができますし、記事にしてもらい評判を広め、どんどん海外市場に挑戦していただきたいです。ただし、米国を参考にしつつも、ある程度独自でやらないと、日米で価値観も違うし、言語や地理的な距離の問題もあり、米国の顧客からすると何故わざわざ日本の会社から買うのか、ということになります。そこに、仕組みもプロダクトも日本らしさがあると、日本独自の価値が生まれ、米国にとっても日本を勉強できるようになると思います。

 

―海外向けビジネスは、地域のエコシステム形成にどのように影響するでしょうか。

スタートアップ企業の海外進出は、地域のエコシステムの発展にも良い影響を及ぼすはずです。福岡に本社のあるヌーラボのニューヨークオフィスには20人程度のスタッフがいます。そのことで福岡本社での言語も英語になったようです。多様なバックグラウンドのスタッフとコミュニケーションをとることになるので、本社の社員の刺激になりますよね。周りの企業にとっても大きな刺激になっているのではないでしょうか。海外進出を考えている方は、自信をもって来てもらっていいと思います。ニューヨークに来てピッチされても控えめな方が多いのが現状です。しかし、話をよく聞けば、プロダクトがしっかりしていて、面白い、チャンスがあるなと思うことが多いです。ダメならダメで繰り返せばいつか突破できます。そういった企業の数が増えるとチャンスも増えるので、連鎖的に、私もやってみよう、となります。例えばそれが横浜であれば、東京に行かなくても横浜でどんどん海外ビジネスできる、という風土になっていくと思います。ビジネスを完全に海外に移すのではなく、日本にもチームがいて、海外にもチームがいてという広がり方が一番いいですね。

 

ライジング・スタートアップス ウェブサイト

Japan NYC Startups (Meetup Group)

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