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コロナ危機とドイツ経済(その5)〜労働市場〜

執筆者 | 2020年7月15日

1. 労働市場の概況

過去数カ月間に渡り、様々な関係者が労働市場に関して警告してきた事が、連邦雇用庁の統計により明らかになった。

3月から4月にかけて失業者数は、264万4千人と30万8千人増加した。前年同期比では、41万5千人増である。これにより、失業率は5.8%と+0.7%上昇した。

6月初旬、連邦雇用庁のデトレフ・シェーレ理事長は、労働市場が引き続きコロナ危機の圧力にさらされているとし、「失業率は5月も上昇を続けてはいるものの、4月程ではない。短時間労働は明らかに2009年の金融危機の水準を超えている。企業の新規求人数も未だ減少を続けている。」と語った。

具体的にみると、5月の失業者数は281万3千人と前月比で16万9千人増、前年同月比では57万7千人増加した。また、5月の失業率は6.1%(1)と前年同期比で+1.2%の上昇となった。

国内就業者数の動向

5月の失業給付金受給者数は、合計で105万8千人と前年同期比で36万4千人増加し、求職者基本支援(SGBII)受給者数は、402万7千人と7万5千人増加した。すなわち、2020年5月、ドイツに住む全生産年齢人口の7.4%が支援を受けたことになる。

短時間労働者数を算出する際には、企業が短時間労働導入前に短縮労働時間数の見込みを申告する必要がある。例えば、5月は106万人分の申告が行われた。3月及び4月には合計で1,066万人分の申告があったが、これが、必ずしも実際の支給額に反映されるとは限らない。3月、実際に支給された短時間労働手当は202万人分だった。4月、及び、5月の速報値は未だ発表されていないが、3月の短時間労働手当の支給額のみでも、2008年及び2009年の史上最悪の不況時の数字を既に大幅に上回っていた。

連邦雇用庁の報告書によると、求人数は58万4千人と前年比で20万8千人減少している。ドイツの人材需要を示す指標であるBAジョブ指数 (BA X)は、5月に94ポイントから91ポイントに低下し、昨年比では、38ポイント低下した。

この傾向は、職業教育訓練生の労働市場でも顕著に見られた。前年比で、職業訓練先への応募者数は3万9千人減、職業訓練先の求人登録数は4万6千人減少した。特に求人登録数の減少幅の大きかった職業訓練先は、外食産業やホテル業界、理容業、機械・工業工学、電気工学、商業、情報産業、食品流通業、道路運送業だった(3)。

新規既存求人数動向

2. 失業率上昇の要因

連邦雇用庁の分析によると、失業者数増加の要因としては、コロナ関連の解雇だけではなく、新規雇用が減少した為、失業から脱することが困難になったことも挙げられる。また、解雇こそされていないものの、仕事がなくなり自営業者として働けなくなった人も失業者数に含まれている(5)。

同分析によれば、短時間労働対策が失業率上昇の緩和要因である事は間違いない。2009年の金融危機の際には、短時間労働者が140万人以上だったが、その後の様々な研究で、当時の失業者数の増加は短時間労働によって大幅に緩和されていた可能性が指摘されている。現時点で、短時間労働の申請数が金融危機の際の水準を顕著に上回っていることからも、解雇を回避することへの関心の高さが窺われる(6)。

しかし、専門家らは企業が債務超過に陥った場合には、短時間労働で失業率の上昇を回避することはできないと警告している。また、経済ショックが一時的なものに留まらず、構造的な危機にまで発展してしまうと、短時間労働で持続的に雇用を確保することは出来ないとしている(7)。

連邦州別失業者数

6月初旬のインタビューでシェーレ理事長は、コロナ危機は連邦雇用庁にも構造変化をうながた、と説明した。通常であれば、短時間労働手当の申告・申請処理業務には700人足らずの従業員が対応していたが、現在は、その人員を約11,600人に増強している。「企業にとって連絡し易い体制を構築する必要があるので、通常4千人だったコールセンターの電話オペレーターを1万8千人に増員した。これと同時に、コールセンター、サーバー、在宅勤務の実現など、IT機能も大幅に拡張せねばならなかった。その為、従来の業務領域外でも、適切な指導を受けた上で担当してもいる従業員も多い。」

一方、財政面では、コロナ危機が連邦雇用庁を限界に追い込む可能性もある。「ピーク時の短時間労働者が750万人、年間平均を220万人とすると、年末には連邦政府から46億ユーロの融資か補填金が必要になる。正確な数字は、実際の短時間労働者数、短縮労働時間数、及び、期間などが明らかになって始めて分かるので、それまでには、あと数カ月の時間がかかる。」

それでも尚、シェーレ理事長は、短時間労働手当の申請のピークは既に過ぎており、まず、大量失業の生じる恐れはないとした上で、景況悪化の原因は構造的欠陥ではなくパンデミックなので、遅くとも、ワクチンさえできれば、克服できるはず、それ故、労働市場は中期的には回復に向かうであろう、と予測している(9)。

 

出所

  1. Bundesagentur für Arbeit; Entwicklung des Arbeitsmarkts 2020 in Deutschland  (last viewed on June 26, 2020)
  2. Statistisches Bundesamt; Entwicklung der Erwerbstätigenzahlen (last viewed on June 26, 2020)
  3. Bundesagentur für Arbeit; Der Arbeitsmarkt im Mai 2020 (last viewed on June 26, 2020)
  4. Bundesagentur für Arbeit; Monatliche Zeitreihen zum Arbeitsmarkt in Deutschland   (last viewed on June 26, 2020)
  5. Frankfurter Allgemeine Zeitung; Warum die Arbeitslosigkeit steigt (last viewed on June 26, 2020)
  6. Institut für Arbeitsmarkt und Berufsforschung (IAB); Kurzarbeit, Entlassungen, Neueinstellungen: Wie sich die Corona-Krise von der Finanzkrise 2009 unterscheidet (last viewed on June 26, 2020)
  7. Institut für Arbeitsmarkt und Berufsforschung (IAB); Kurzarbeit in Europa: Die Rettung in der Corona-Krise? Ein Interview mit IAB-Forscherin Regina Konle-Seidl  (last viewed on June 26, 2020)
  8. Institut für Arbeitsmarkt und Berufsforschung (IAB); Regionale Arbeitsmarktvorausschau (Stand: Mai 2020) (last viewed on June 26, 2020)
  9. ZDF; BA-Chef Scheele – Finanzielles Defizit und personelles Umdenken  (last viewed on June 26, 2020)

 

 

参考

横浜市では、市内企業・団体等の皆様にお役立ていただくため、感染が世界的な拡大の兆しを見せた2020(令和2)年2月から、フランクフルト、上海、ムンバイ、ニューヨークに所在する4つの事務所が、それぞれの所在地域における新型コロナウイルス感染症に関する情報を独自に収集し、神奈川新聞及び各事務所のウェブサイトで発信してきました。

そのような、まさに現地に駐在している職員だからこそ可能な、現地における市民生活への影響、経済活動の動向、感染症対策などに関する情報発信は約1年間に渡り、57件を数えました。このたび、それらを「コロナ禍の世界 記録集」として一冊にまとめ、改めてお届けします。

コロナ禍の世界 記録集(2020~2021年)27.57MB

 

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