3月1日にニューヨーク州で一人目の陽性者が確認された。以降、二週間後には1,000人(3/15に941人)、三週間後には15,000人(3/14に15,167人)、一か月後には100,000人(4/1に102,862人)と、急拡大を続け、世界最大の感染拡大都市となった。4月中旬にピークを迎え、4月下旬からは感染カーブは下り坂に入った。5月を迎え、感染の抑制の継続と共に、段階的な社会経済活動の再開に向けて舵を切り始めた。世界最大の感染拡大地域となったニューヨーク州・市が、現在に至るまで、いかに新型コロナウイルスに立ち向かってきたかについて、一駐在員の視点から公共政策を振り返りかえる。

ニューヨーク州、市の情報発信

在ニューヨーク日本総領事館(以下、総領事館)は、管轄区域内の日本人在住者に向けて、メールで必要な情報を提供している。2020年1月から、新型コロナウイルスの発生に関する注意喚起情報が度々届くようになり、3月1日以降、新型コロナウイルス関連情報が毎日届くようになった。主な内容は、「州政府等による措置等のポイント」と「感染者数等に関する情報」だ。これらの情報はメールだけでなく、総領事館のウェブサイトでも公開されている。

「州政府等による措置等のポイント」の情報元の一つは、ニューヨーク州のクオモ知事による記者会見だ。クオモ知事は、ニューヨーク州で一人目の陽性者が確認されて以来、新型コロナウイルスの感染状況と対応について、毎日、記者会見を開いている。記者会見はインターネットでライブ配信され、当日のうちに動画、音声、発言記録(Transcript)がウェブサイトに掲載される。ニューヨーク市のデブラシオ市長も高頻度で記者会見を開き、クオモ知事と同様に、インターネットでの配信と共に、発言記録(Transcript)はウェブサイトに即日公開される。知事及び市長の会見へのメディアの関心度は高く、テレビのローカルニュース番組だけでなく全国ニュース番組でもたびたび中継され、また、多くのメディアがクオモ知事とデブラシオ市長の会見をYouTubeにアップロードしている。例えば、NBC Newsがアップロードした、クオモ知事の3月22日(PAUSEという在宅勤務の義務化を含む行政命令が発効された日)の会見動画は、5月時点で100万回以上視聴されている。

(ニューヨーク州ウェブサイト(5月5日))

記者会見とウェブサイト以外での情報発信として、ニューヨーク州は、新型コロナウイルスについてのニュースレターをメールで毎日(毎晩7時から8時頃に)配信している。ニューヨーク州のウェブサイトで名前、Eメールアドレス、郵便番号を記入すれば登録できる。ニュースレターは、クオモ知事からのメッセージという形式となっており、当日の会見の要点を中心とした情報の他に、メッセージの最後には、Tonight’s “Deep Breath Moment”というタイトルで、市井の人々、組織、企業の心温まる話題や活躍事例を取り上げるなど工夫が見られる。例えば4月22日のアース・デイには、I Love NYのインスタグラムへのリンクとニューヨーク州の自然豊かな写真で締めくくられた。

ニューヨーク市は、新型コロナウイルス情報を、携帯電話/スマートフォンへのテキストメッセージで配信している。692-692宛てに「COVID」とテキストを送ると登録される仕組みだ。ソーシャル・ディスタンシング(他者との距離を置くこと)やマスク着用の遵守の呼びかけ、医療従事者への無料のホテルの提供情報、ボランティアの募集、家庭内暴力へのヘルプライン情報、新規検査所のオープン情報など様々な情報を一日数回の頻度で発信している。

クオモ知事とデブラシオ市長は頻繁にツイッターで投稿し、州と市の保健局もフェイスブックやツイッターを活用するなど、重層的な発信が行われている。例えばニューヨーク州の保健局では、フェイスブックにクオモ知事の会見をアップロードし動画に誘引、ツイッターではアメリカ疾病予防管理センター(CDC)やクオモ知事のリツイートなどを行っている。

データ

ニューヨーク州、市ともに、感染状況のデータを公開し、毎日更新している。ニューヨーク州では、検査数の累計、当日の検査数、陽性者の累計、当日の陽性者数を、該当ウェブページのトップに目立つように掲載している。クオモ知事は、州内での感染が確認された当初から、検査の拡大を重要視しており、検査数が増えれば、陽性者数も増えるということを繰り返し説明してきた。死亡者数については、地域別、人種別、年齢別、性別のデータを公開している。ニューヨーク市は、感染者数、入院者数、死亡者数の推移を基本情報とし、それぞれについての年齢別、性別、地域別のデータを公開している。また、感染者についてはマップデータ(住所別)も公開している。米国では、ヒスパニックや黒人の感染率、死亡率が高く、人種別のデータや住所別のマッピングは、マイノリティや貧困層が犠牲になっている状況を示す情報として重要な意味を持っている。

(ニューヨーク市の住所別の感染状況マップ)

多言語での情報発信

クオモ知事の会見記録は、100以上の言語で機械翻訳対応している。日本語に翻訳することも可能だ。クオモ知事の分かりやすいメッセージも相まってか、ほとんど違和感のないレベルで翻訳ができている。ニューヨーク市の新型コロナウイルス感染症のウェブページも、同様に機械翻訳で対応している。ニューヨーク市は機械翻訳とは別に、新型コロナウイルスのFAQを掲載したファクトシートや自宅待機の啓発チラシを、日本語を含め複数言語で作成・公開している。単にウェブサイトに情報を掲載するだけではなく、ウェブサイトに呼び込むために、Google広告を活用している。Googleから日本語で「コロナウイルス」と検索すると、ニューヨーク市の新型コロナ感染情報の日本語ページへの案内がトップに掲載された。(特定のキーワード、この場合は日本語で「コロナウイルス」と、Googleアカウントで位置情報が特定できる利用者に対して、広告が掲載されるようになっているものと考えられる。)

ニューヨーク地区では、月曜日から金曜日の朝7時から8時にケーブルテレビで日本語のニュース番組が放映されており、ニューヨーク市保健局は、この時間帯に新型コロナウイルスのCMを流している。CM動画はYoutubeでもアップロードされており、自宅待機について、手洗いについて、他者との距離を空けることについてなど、複数のパターンで、且つ、多言語で作成されている。筆者がニューヨーク市の日本語情報を知ったのは、自分のフェイスブックアカウントに、ニューヨーク市の新型コロナウイルス情報案内が表示されたことがきっかけだった。(トップ画像)。

このように、ニューヨーク市は、ウェブサイトでの多言語情報を軸に、ターゲットごとに情報を届けるため、広告も含め、複数のメディアを組み合わせた戦略的な発信を行っていることが分かる。(新型コロナウイルスとは異なるが、本レポートの執筆時点で、米国国勢調査が実施されており、YouTubeで日本語CMをよく見かける。)

なお、デブラシオ市長は、4月24日の会見で、マイノリティが深刻な被害を受けている背景から、1000万ドルを投じて88の地域において15言語で広報を実施するなど市民の意識を高めていく、と発表している。

次回に続く

【関連記事】
COVID-19記事シリーズ

危機下における都市間協力