北米特集記事

カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California, San Diego:UCSD):後編

執筆者 | 2021年7月25日 | 大学スタートアップエコシステム, 特集記事

前編で見てきたように、UCSDは大学内に充実したイノベーション・エコシステムを構築してきた。実はこうした取り組みは学内に留まらない。UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)は学外のステークホルダーとの連携を通じて、様々な起業支援の活動も行っている。以下では特に、サンディエゴや南カリフォルニアといった、UCSD地域コミュニティのステークホルダーとの起業支援の主な取り組みについて見ていく。あわせて、UCSDにおける起業支援ノウハウの海外展開Global CONNECTについても紹介する。

サンディエゴのイノベーション・エコシステムを支える地域ネットワーク

UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)はサンディエゴや南カリフォルニアのイノベーション・エコシステムのステークホルダー間の連携を強める活動に加わっている。具体的には、UCSDはサンディエゴの地域イノベーション・エコシステムに関わる30を超える団体・組織がメンバーやパートナーとなっている協議会「San Diego Innovation Council(SDIC https://sdic.org/)」に参加している。SDICは、サンディエゴ地域を世界的なイノベーション拠点として成長させるための地域連携を促進し、他の地域からパートナー等を求めてやってくる関係者と、サンディエゴ地域のキー・プレイヤーとを結びつけるゲートキーパーとしての役割を担うことを目指し、2016年に設立された。同協議会メンバー・パートナーには、UCSDをはじめとする大学・研究機関のほか、Johnson & Johnson(ジョンソン・エンド・ジョンソン)のインキュベーション施設「JLABS @ San Diego」やConnect w/ San Diego Venture Group(CONNECT)、EvoNexus等のアクセラレーター/インキュベーター、サンディエゴ地域経済開発公社(San Diego Regional Economic Development Corporation 等の経済開発組織、BIOCOM(バイオサイエンス関連団体)等の業界団体、San Diego Entrepreneurs Exchange(SDEE)、Startup San Diego等の起業家支援団体、サンディエゴを含む南カリフォルニアのイノベーション・エコシステム連携促進団体Alliance for Southern California Innovation(Alliance for SoCal Innovation)等が名を連ねている。

SDICの主な取り組みとして、毎年「Innovation Showcase」を開催し、UCSDをはじめとするサンディエゴやカリフォルニア周辺の大学・研究機関から誕生したスタートアップ企業にプレゼンテーションやネットワーキングの機会を提供している。例えば、2018年、2019年はJLABS @ San Diegoが会場となり、治療・診断技術、クリーンテック、アグテック、ソフトウェア、電子工学、その他エンジニアリング等に関連する30社以上のスタートアップ企業がプレゼンテーションを行っている。同イベントは、南カリフォルニアに留まらず、シリコンバレーのあるベイエリアやボストン、さらには海外から、投資家、企業関係者、知的財産関連弁護士等を含む500人規模の参加者を集めてきた(1)。なお、2020年はコロナ禍の影響で、従来型のイベントは開催できなかったが、バーチャル・ピッチイベント「Inventors & Investors」をエンジェル投資家グループTech Coast Angels(TCA)サンディエゴ支部と連携し、2020年10月に実施した(2)。

スタートアップ支援団体との個別連携も模索

このほかUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)はサンディエゴのスタートアップ・エコシステムを支えるステークホルダーとの個別の連携も進めている。例えば、同大学のビジネススクールであるランディ・スクール・オブ・マネジメント(Rady School of Management)と、南カリフォルニアを代表するインキュベーターであるEvoNexusは、2019年6月、次世代フィンテック(FinTech)関連スタートアップの起業を後押しする新プログラム立ち上げのための戦略的パートナーシップを発表した(3)。

UCSDはまた、スタートアップの教育やコミュニティのステークホルダーとスタートアップの連携促進等に取り組む非営利団体Startup San Diegoの投資家としても名を連ねている。同団体は、2012年から毎年、San Diego Startup Weekなどのイベントを開催し、サンディエゴ地域のスタートアップ・コミュニティを盛り上げてきた(4)。コロナ禍の2020年には、1か月に亘るバーチャル・イベント「San Diego Startup Month」を10月に開催。上述のSDICとTCAサンディエゴ支部によるバーチャル・ピッチイベント「Inventors & Investors」は、San Diego Startup Monthの一環として実施された。

UCSDにおける起業支援の海外展開

UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)はここまで見てきたようなサンディエゴや南カリフォルニアで培ってきた起業支援のノウハウやリソースを活かし、国内外に広く展開するサービスも提供している。UCSDで一般社会人向けのプログラム等を行っているUC San Diego ExtensionのGlobal CONNECTでは、国内外の政府機関や民間企業関係者、研究者等を対象に、サンディエゴやシリコンバレーから集められたイノベーションや起業の専門家チームが、イノベーションや新技術の実用化に関する教育・支援サービスを提供している。具体的には、カリフォルニア州の市場を理解するための研修プログラム、技術の実用化に関する研修プログラム、サンディエゴのライフサイエンス産業に関する職能開発プログラムといった、クライアントニーズに合わせてカスタマイズされた研修プログラムや各種ワークショップが用意されている。Global CONNECTのクライアントには、ドイツの大学院Steinbeis School of International Business and Entrepreneurshipや、韓国の韓国産業技術振興院(the Korea Institute for Advancement of Technology:KIAT、オーストラリアのMonash University、カナダのブリティッシュ・コロンビア州政府、ニュージャージー州に拠点を置く製薬大手Merck & Co., Inc.University of Hawaii System等、国内外の研究機関や民間企業が含まれている(5)。

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