北米特集記事

マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology:MIT)前編

執筆者 | 2021年10月26日 | 大学スタートアップエコシステム, 特集記事

MITは世界的に著名な研究大学であり、直近のUS Newsによる2021年グローバル大学ランキングでは、ハーバード大学(Harvard University)に次ぎ世界2位に位置している(1)。MITは、マサチューセッツ州ボストンに隣接するケンブリッジに本部を置き、同じくケンブリッジに所在するハーバード大学とも非常に近い距離にあり(2)、東海岸を代表するイノベーションエコシステムの中心的な大学となっている。PitchBook Dataが発表している「スタートアップ企業(3)の創設者を生み出したトップ50の学部プログラム」ランキング2020年版(4)で、MITは1位のスタンフォード大学、2位のカリフォルニア大学バークレー校に続き、3位(1,125名)となった。MIT発表によれば、1997年から2020年までにMITから生まれたスタートアップ企業数は528社(2020年は32社)に上り、2020年のライセンス収益は7,280万ドル、有効な米国特許件数は3,396件となっている(5)。

MITのイノベーションエコシステム

MITは、スタートアップ企業の誕生を後押しするイノベーションエコシステムを長年に亘って構築してきた。そうした中、大学横断型のイノベーション・イニシアチブMIT Innovation Initiative(MITii)を立ち上げ、MIT工学部(School of Engineering)やMITスローン経営大学院(MIT Sloan School of Management)が中心となって、MITにおけるイノベーション推進戦略等を策定している(6)。MITiiの具体的な機能・役割には、①イノベーションや起業に携わるMIT学生、教育プログラム、施設のネットワークの促進、②MITで成果を上げているイノベーション及び起業関連プログラムのMIT学生や外部パートナー組織への紹介、③イノベーションに関する新しい教育や研究プログラム、施設の創出を通じた成長機会の特定などが含まれている(7)。

MITiiはウェブサイトにおいて、MITイノベーションエコシステムを構成する主な組織やプログラムの例を紹介している。アクセラレータープログラム、インキュベーション施設、新製品研究開発支援、資金支援、コンペ、シンポジウム等イベント、法律アドバイスに加え、人材育成、メンタリング、ネットワーキング支援等が含まれている(8)。特に多いのが人材育成関係で、起業家やイノベーター育成を目的としたプログラムのほか、イノベーションエコシステムを世界各地で構築しようとしている国や地域、自治体等の関係者向け育成プログラムなども実施されている。

MITイノベーションエコシステムを構成する組織・プログラムの例(アルファベット順)

組織・プログラム 概要
Boston University School of Law Clinics at MIT MITがボストン大学と共同設立した二か所のクリニックで、イノベーションや起業を目指す学生に無料の法律相談を提供している。
Deshpande Center for Technological Innovation イノベーションの開発、製品化、起業を目指すMIT研究者に、助成金、市場機会の評価、シンポジウムの場等を提供する
E14 Fund ビットコイン、ウェアラブルコンピュータ、タンジブル・ユーザインターフェース、スマートシティ、ゲノミクスといった分野の先端技術を開発するMITのアーリーステージスピンオフに対して資金を提供する基金プラットフォーム。
Gordon-MIT Engineering Leadership Program (GEL) 全国的な工学分野のリーダーを育成するプログラム。
IMPACT Program 博士課程及び一部の修士課程修了後の研究者を対象とした6か月間のキャリア開発メンターシッププログラム。
Lemelson-MIT Program MIT学生を対象としたイノベーションアワード、全米の高校生、教員、メンター等で構成されたチームに最大1万ドルを支給するテクノロジーソリューション開発コンテスト、年次イベント等を提供するプログラム。
Martin Trust Center for MIT Entrepreneurship MIT学生を対象とした起業支援センターで、コワーキングスペース、会議室、メイカースペース等が用意されている。
Media Lab Entrepreneurship Program メディアアートと科学の融合をテーマとした学術プログラムで、アイデアをプロトタイプや製品、サービスに結びつけるような起業支援を提供する。
MIT Alumni Association MITと卒業生のつながりを強化するサービスとリソースを提供する卒業生ネットワーク。
MIT Bootcamps 世界中のイノベーターを対象とした1週間のイノベーション・リーダーシッププログラムで、MITの教員及びメンターが起業について教授する。
MIT Enterprise Forum of Cambridge 全ての起業家を対象としたメンターシッププログラム。
MIT Hong Kong Innovation Node MIT学生、教員、研究者と香港在住の学生、教員、MIT卒業生、起業家、ビジネスが、様々な起業・研究プログラムで協働できるように支援するネットワークプログラム。
MIT Initiative on the Digital Economy (IDE) デジタルエコノミー分野での賞金総額100万ドルのイノベーションコンペや起業支援イベントを提供するプログラム。
MIT International Science and Technology Initiatives (MISTI) 毎年900人以上のMIT学生に世界中のインターンシップ、教授、研究プログラムに斡旋する国際教育プログラム。
MIT Libraries’ Innovation & Entrepreneurship Librarian イノベーションと起業に関する情報収集支援を行うMIT図書館員サービス。
MIT Professional Education 世界中の技術専門家向けの生涯学習教育プログラム。
MIT Regional Entrepreneurship Acceleration Program (REAP) MITの国際イニシアチブであり、世界各地の経済成長と社会発展の促進を目的に、選考制の2年間の有料学習エンゲージメントを通じて、各国・地域の代表チームが、MITのREAP担当教員やスタッフの支援を基に、地域のスタートアップ・起業エコシステムの強化につながる独自の戦略を策定・実施する。
MIT Sloan Executive Education キャリア開発を目指す世界中のビジネスプロフェッショナル向けのエグゼクティブプログラム。
MIT Solve テクノロジー系起業家によるソリューション開発コンペやネットワーキング機会を提供するイニシアチブ。
MIT Startup Exchange MITと関連のあるスタートアップと産業界の連携を推進するスアートアップエクスチェンジプログラム。
MIT Venture Mentoring Service (VMS) MITコミュニティの起業家にボランティアメンターを斡旋するサービス。
MITx on edX MITとハーバード大学が2012年に出資した大規模公開オンライン講座(Massive Open Online Course:MOOC)プロバイダーのedXが運営する無料オンライン講座。
New England I-Corps @ MIT ニューイングランド(9)におけるテクノロジーの実用化を推進するプログラムで、起業向け訓練やグラント、ネットワーキング機会等を提供する。
Project Manus メイカースペースを刷新し、メイカーコミュニティを発展させることを目的としたMITのプロジェクト。2021年10月初時点で、Project Manusウェブサイトには、MITのあるケンブリッジに30カ所を超える名カーズスペースがリストアップされている(10)。
Sandbox Innovation Fund Program 最大2万5,000ドルのシード投資やメンタリング、ネットワーキング機会を提供するプログラム。
StartMIT 起業を目指すMITコミュニティ向けの2週間半のメンタリングプログラム。
Technology Licensing Office (TLO) MITで開発されるイノベーションやディスカバリーの実用化を支援する技術ライセンシングオフィス。

出典:MITiiウェブサイト に基づき作成。

また、MITのイノベーションエコシステムには、特定分野にターゲットを絞ったプログラムなどもある。代表的なものとしてMITiiのウェブサイトでは以下が紹介されている(12)。

特定分野にターゲットを絞ったプログラムの例

特定分野にターゲットを絞ったプログラムの例

出典:MIT Innovation “Institute Innovation & Entrepreneurship Resources(13)”を基に作成

ケンブリッジのイノベーションクラスターに新たなInnovationHQを開設

上述のような充実したイノベーションエコシステムに加え、MITは2020年春、ケンブリッジのイノベーションクラスターの中心地として有名なKendall Squareに、イノベーション・起業関連活動を行うための広さ2万5,000平方フィート(約2,323平方メートル)を超える新たなセンターInnovationHQ(iHQ)を開設した。iHQには、コワーキングスペース、研究プログラム関係者や研究者向けのオフィス、会議室等が用意されており、MIT学生向、教員、研究者、そしてKendall Squareコミュニティがイノベーションや起業に関するアイデアを共有できる空間となっている。また同センターには設立に伴い、MITのイノベーション関連イニシアチブ・プログラムであるLegatum Center for Development & Entrepreneurship、Deshpande Center for Technological Innovation、MIT Innovation Initiative、MIT Sandbox Innovation Fund Program、MIT Venture Mentoring Service、New England I-Corps @ MIT、MIT Alumni Association、MIT Music and Theater Artsの本部も同センター内に設置された(14)。さらに、同センターでは、1階と2階に、MITウェルカムセンター(MIT Welcome Center)と入学事務局のMITアドミッションズ(MIT Admissions)を設置しており、新たに入学してくる学生や訪問者に対して、MITがイノベーションを奨励しているというメッセージになると2021年9月7日付けMIT Newsが伝えている(15)。

主要組織のリンク(アクセス:2021年10月19日)

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