横浜市米州事務所と 一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)との連携による「横浜・LINK-Jライフサイエンス・ラウンジ@NYC」では、米国ライフサイエンス・ビジネスに関する最新情報を米国からライブ配信でお届けしています。現地時間2023年6月12日、米国における最前線の医療アンメットニーズ:卵巣がん診療をテーマとして、同ラウンジ第三回セミナーを開催しました。現地から会場参加の他、オンラインで275名の登録があり、ニューヨークの医療を牽引する主要大学病院に所属する婦人科腫瘍学、遺伝医学、患者ケア/テクノロジーのエキスパートから、卵巣がんを切り口として臨床・研究・技術の米国での最新動向に係る生の情報についてお届けしました。
講演
3つの講演パートの一つ目は、コロンビア大学産婦人科博士研究員/婦人科腫瘍専門医である鈴木幸雄氏が、「卵巣がん診療のトピックとアンメットニーズ」と題して、卵巣がんは産婦人科領域でも最も難治性が高く、検診が存在しないため意図的な発見ができないことから、約半数以上が進行したステージⅢ以上で発見され集学的治療が必要になっている現状について解説がありました。加えて、遺伝との関連が強く、また播種を起こしてしまうリスクから卵巣自体から生検を行うことが困難という卵巣がんの特徴から、血液から遺伝情報を入手するリキッドバイオプシーに対する期待が高まっていることや、より詳細な遺伝子変異の解明によって標的治療が進んでいる動向を含め、治療の全体像を包括的に説明しながら多岐にわたる論点について触れられました。
続いて、マウントサイナイ医科大学遺伝ゲノム科Adjunct Assistant Professorの三戸芳子氏から「遺伝子診断の最新動向」と題して、まず、そもそも細胞の遺伝子変異によって引き起こされるがんの分類、治療選択、予後予測にとって重要な遺伝子診断をより早く、より高い精度で行うことを可能にする技術革新の動向について触れられました。加えて、卵巣がんをはじめとする遺伝性がんの発症前遺伝子検査はがん予防に役立つ一方で、検査に必要な家族歴からはリスクが判別しにくいケースや、提唱されているPopulation Screeningの利点、遺伝子検査に係る日米での制度比較など多岐にわたる論点を概説されました。加えて、遺伝子診断を取り巻く技術革新により、ビックデータや遺伝情報との連携などの新たな可能性について触れられました。
最後に、ハッケンサック・メリディアンヘルス患者エクスペリエンス室の齋藤大介氏からは、ペイシェントエクスペリアンス(PX)の流れに沿って、「最先端技術・ソリューションの動向」について解説されました。具体的には、①検査でのBiomarkerとしては組織、細胞が採取しづらい部位での血液検査を可能とする技術への価値が高まっていること、②診断でのOptical Biopsyとしては、光学を用いてリアルタイムでの診断・処置行う技術を紹介され、加えて、③治療戦略を決める際のXenograft/Avatarとして臨床ベースで個別医療仮説を検証する最近の動向や、④治療&診断におけるTheranosticsとして、抗体薬を用いることで放射線によってより高精度な標的特定と高い殺傷効果が期待されうる点と、すべての過程に影響を与えうるAIについて触れられました。
ディスカッション・Q&A
ディスカッション・Q&Aパートでは、LINK-J事務局長の高橋俊一氏がモデレーターを務め、講演をされた鈴木幸雄氏、三戸芳子氏、齋藤大介氏がパネリストとして参加し、前段の講演内容を基に、卵巣がんや遺伝子診断などを取り巻く日米の医療制度や社会的な態度の違いなどについて深堀、議論がされました。米国で先行する遺伝子診断などが日本でも今後さらに進む可能性があるのではという点が触れられ、医療保険制度や文化の違いから遺伝子検査の社会での浸透の仕方の違い、更に米国政権交代による影響についてパネリストからは指摘をされました。また、オンラインでも、米国の遺伝子カウンセラー資格や、遺伝子検査結果の製薬におけるデータの二次利用の動向、患者エクスペリアンスがなぜ米国で必要とされているのか等について質問が出され、オーディエンスの関心の高さが伺えました。
本セミナーのうち、鈴木 幸雄氏(コロンビア大学産婦人科 博士研究員 / 婦人科腫瘍専門医)及び齋藤 大介氏(ハッケンサック メリディアンヘルス 患者エクスペリエンス室)のお二人の講演内容は下記アーカイブ動画からご覧いただけます。(定期間経過後非公開に変更する可能性がございます。)