北米特集記事

ニューヨーク州サフォーク郡(Suffolk County, NY)

執筆者 | 2019年4月19日 | 特集記事, 米国産業クラスター情報

サフォーク郡の地理と交通

サフォーク郡はニューヨーク州南東部の島、ロングアイランドの東側に位置する(Google Map)。ロングアイランド島にはサフォーク郡のほか、クイーンズ郡とキングス郡(いずれもニューヨーク市)、ナッソー郡という4つの郡がある。交通アクセスにすぐれており、郡内にロングアイランド・マッカーサー空港(Long Island MacArthur Airport)を含む3つの地域空港があるほか、近隣のクイーンズ郡にはジョン・F・ケネディ国際空港(John F. Kennedy International Airport)とラガーディア空港(LaGuardia Airport)という2つの国際空港がある。また、サフォーク郡からはコネチカット州へのフェリーも就航している。郡都はリバーヘッド市(Riverhead)。

 

サフォーク郡の統計(人口、産業)

サフォーク郡の人口は1,492,953人(2017年、米センサス)で、人口に占める白人の比率は84.5%で全米平均より高い(全米:76.6%)。一方、アジア系は約4.2%で全米平均より低くなっている(全米:5.8%)。25歳以上にしめる最終学歴が学士卒業以上の割合は35%(2013-2017年)で、全米の30.9%を4ポイント程度上回っている。平均所得は92,838ドル(2013-2017年)で、全米平均の57,652ドルの約1.6倍と高所得層の多い地域となっている。

産業別では医療及び社会福祉業の雇用数が多い。また全米平均と比較すると建設業の雇用が全産業合計に占める割合が高くなっている(2016年、米センサス)。

 

サフォーク郡の産業集積:州のバイオテクノロジー産業振興拠点

サフォーク郡は、遺伝子工学・バイオテクノロジー関連ニュースメディアGENによる2018年全米バイオ医療クラスターランキング で第3位となったニューヨーク・ニュージャージー地域(New York / New Jersey)にある。中でも、サフォーク郡にはバイオ医薬品関連の雇用が集中している。米商務省経済開発局(Economic Development Administration: EDA)の助成を受け、ハーバード大学ビジネススクール(Harvard Business School)が運営するクラスターマッピングプロジェクト(Cluster Mapping)によれば、2016年バイオ医薬品関連雇用数の州別ランキングでニューヨーク州(20,526人)は第2位だった。その州内で最も関連雇用が多かったのがサフォーク郡の9,734人である。

ニューヨーク州は経済開発プログラムの一環として、バイオテクノロジーやライフサイエンス産業の人材育成や研究開発活動を支援してきた。同産業を対象とした税制優遇インセンティブなども実施して、企業誘致や投資を奨励している。こうした州政府の取り組みには、スタートアップ企業支援も含まれており、その中心的な役割を担っているのが、サフォーク郡にあるニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(Stony Brook University:SBU)である。SBUは北米トップクラスの研究大学のみが参加を認められている米国大学協会(the Association of American Universities:AAU)に参加する62校のひとつである。U.S. News & World Reportによる全米大学ランキングで上位100位以内にランクインし、Times Higher Education の世界大学ランキング(World University Rankings)でも上位1%の大学に位置づけられている 。ノーベル賞をはじめとして世界的評価の高い研究者を数多く教授陣として迎え、世界各国から学生が集まっている。学術研究の他、医学部の傘下にストーニーブルック大学病院(Stony Brook University Hospital)をはじめとする医療機関や退役軍人向け介護施設なども運営している。

ニューヨーク州政府によるバイオテクノロジー産業振興政策のもと、SBUにはセンター・フォー・バイオテクノロジー(Center for Biotechnology:CFB)が置かれている。CFBは、ニューヨーク州経済開発組織エンパイア・ステート開発公社(Empire State Development Corporation:ESD)科学技術イノベーション・プログラムNYSTARの資金により州内15ヶ所に設立されている先端技術センター(Centers for Advanced Technology:CATs)のひとつで、民間企業と大学が連携して新技術の開発や実装に取り組んでいる。

CFBには、ロング・アイランド・バイオサイエンス・ハブ(Long Island Bioscience Hub:LIBH)が置かれている。LIBHは、米国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)が全米3ヶ所に構える研究評価商業化ハブ(Research Evaluation and Commercialization Hubs:REACH)のひとつで、薬、医療機器および診断に関する科学的研究の成果を迅速に市場化につなげることをめざし、ベストプラクティスを開発するために設計された官民連携である。LIBHには、SBUのほか、サフォーク郡にある世界的な生物学・医学分野の非営利民間の研究機関コールド・スプリング・ハーバー研究所(Cold Spring Harbor Laboratory:CSHL)や米エネルギー省(Department of Energy:DOE)傘下のブルックヘイブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory:BNL)、隣接するナッソー郡(Nassau County)にあるファインスタイン医学研究所(The Feinstein Institute for Medical Research)が参加している。また、NIHに加え、ESDやニューヨーク州立大学研究財団(Research Foundation for SUNY)が活動を支援している。また、米保健福祉省(Department of Health and Human Services:HHS)傘下の生物医学先端研究開発局(Biomedical Advanced Research and Development Authority:BARDA)が選んだ全米8つのアクセラレーターのひとつに選ばれている。このほか、CFBはマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology:MIT)との提携を通じたバイオテクノロジー分野の起業家を育成するメンター・プログラム、ロング・アイランド・バイオメンター・イニシアチブ(Long Island BioMentor Initiative:LIBMI)なども実施している。

 

バイオテクノロジー以外にも、SBUはニューヨーク州における先端技術研究開発拠点として様々な取り組みで重要な役割を担っている。SBUにはCFBに加え、統合電機エネルギー・センター(Center for Integrated Electric Energy Systems:CIEES)とセンサーCAT(Sensor CAT)というCATsが設置されている。また、NYSTARによる中小製造企業支援ネットワークのニューヨーク製造拡大パートナーシップ(New York Manufacturing Extension Partnership:NY MEP)でも、拠点センターのひとつ製造技術リソース・コンソーシアム(Manufacturing and Technology Resource Consortium:MTRC)がSBUに置かれている。この他、ニューヨーク州内には、NYSTARが認定したビジネス・インキュベーターが20拠点あり、サフォーク郡では、SBUのロング・アイランド・ハイテク・インキュベーター(Long Island High Technology Incubator:LIHTI)が含まれている。

 

北米最新特集記事

タイ国バンコク都との都市間協力を推進しています。

タイ国バンコク都との都市間協力を推進しています。

横浜市は都市づくりの経験・ノウハウと企業の技術を活用し、新興国等の都市課題解決の支援と企業の海外展開支援を目的とした「横浜の資源・技術を活用した公民連携による国際技術協力(Y-PORT事業)」に取り組んでいます。 本稿では、タイ・バンコク都との都市間連携を特集します。...

ニューヨークの気候テック・イニシアティブ②:ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)のスタートアップ支援

ニューヨークの気候テック・イニシアティブ②:ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)のスタートアップ支援

ニューヨークでは、州全体のクリーンエネルギー推進や気候テックスタートアップ支援において、州によって設立された公益法人ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)が大きな役割を果たしている。また、ボストンで重層的な気候テック支援環境が見られるように、ニューヨークにおいてもNYSERDAだけでな...

ニューヨークの気候テック・イニシアチブ① :ニューヨーク市の気候ソリューションセンター計画

ニューヨークの気候テック・イニシアチブ① :ニューヨーク市の気候ソリューションセンター計画

ニューヨーク市政府は、気候変動の危機に対応するグローバルリーダーとなることを目指し、脱炭素政策に取り組んでいる。ニューヨークの脱炭素に向けた取り組みの中で気候テック・エコシステムにかかる代表的なイニシアチブが、ニューヨーク市マンハッタンに属するガバナーズ島の気候ソリューションセンター(Center...

ボストンの気候テック・エコシステム⑤:気候テック・スタートアップへの重層的な支援

ボストンの気候テック・エコシステム⑤:気候テック・スタートアップへの重層的な支援

前項まで、ボストンの気候テック・エコシステムの主要なハブとして、グリーンタウン・ラボ、MIT、マサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センターを取り上げてきたが、ボストンを中心にマサチューセッツ州内には、気候テック・スタートアップを支えるまだまだ多くの支援機関やプログラムが存在する。【インキュベータ...

ボストンの気候テックエコシステム④:気候テックの実証促進「マサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センター」

ボストンの気候テックエコシステム④:気候テックの実証促進「マサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センター」

気候テックの多くは、商用化までに長い年月を要するため、民間投資のみで成長させることが難しく、公的な支援が必要とされている。ボストンの気候テックへの政府系支援で大きな役割を担っているのが、準公的機関であるマサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センター(MassCEC)である。[1]...

市内企業の興栄商事がタイでセミナー開催!

市内企業の興栄商事がタイでセミナー開催!

2024年2月13日(火)、市内企業の興栄商事株式会社が「タイにおける電気・電子機器廃棄物のITAD事業及びリサイクル事業に関する説明会」をホリデイインバンコクスクンビットセミナー会場開催しました。...