ニューヨーク市が抱える問題をスマート技術で解決するための取り組みとして、NYCx Co-Labsが知られる。オバマ前政権のスマートシティイニシアチブを発端に誕生した同プログラムでは、ニューヨーク市政府、地元の非営利団体、テクノロジー関連企業、財団などのパートナーが連携し、ニューヨークの都市生活を改善する新技術の研究開発を加速させることを目指している。

ニューヨーク市5区にスマートシティハブを創出するNYCx Co-Labsプログラム

ニューヨーク市では、ニューヨーク市長室最高技術責任者(The Mayor’s Office of the Chief Technology Officer:MOCTO)が、スマートシティ技術、デジタルサービス、ブロードバンドの導入計画や、テクノロジー産業との提携による各計画の実施を担当している(1)。NYCx Co-Labsプログラムは、オバマ前政権が2015年9月に立ち上げたスマートシティイニシアチブの一環として、全米20都市が参加した自治体‐大学連携プログラム「MetroLab Network」の取り組みの1つ(2)。同プログラムにおいてMOCTOは、ニューヨーク市経済開発公社(NYC Economic Development Corporation:NYCEDC)とニューヨーク大学の都市科学・プログレス研究センター(Center for Urban Science And Progress:CUSP)と共に、MOCTOのパブリックWi-Fiネットワーク拡大やCUSPの都市コミュニティ研究といった取り組みを土台に、スマートシティ技術のテスト・実装を推進するイノベーションハブ(旧名:Neighborhood Innovation Labs)を、ニューヨーク市の5つの行政区(マンハッタン区、ブルックリン区、クイーンズ区、ブロンクス区、スタテンアイランド区)に設立することを目標に掲げた(3)。具体的な取り組みとしては、スマートシティ技術のニーズが高いこれらの地区に、ニューヨーク市政府機関、非営利団体、テクノロジー関連企業、財団といったパートナーが集まり、イベント、ワークショップ、コミュニティスペース等を通じて、各コミュニティに特化した問題を解決するようなソリューションの特定、開発、テストを行っている(4)。

ニューヨーク市内初の実証実験の場となったNYCx Co-Labsは、ブルックリン区ブラウンズビル(Brownsville)の犯罪撲滅を使命とする非営利団体Brownsville Community Justice Centerの協力と、ニューヨーク市から支給された25万ドルを基に、ブラウンズビルの公共広場Osborn Plazaで2017年5月に開設された(5)。同広場では、ソーラーパネル発電により、捨てられたゴミを自動圧縮し、回収が必要な場合には市当局に自動で通知するスマートゴミ箱Bigbellyと、ソーラーパネルを内蔵し無料でスマートフォンが充電できるスマートベンチSoofeが設置され、将来的な大規模導入を想定して、コミュニティからのフィードバックが集められた。

続いて、MOCTOとNYCEDCは同年10月、ブラウンズビルの実証地域を活用した2つのコンペ開始を発表した。1つは「Safe and Thriving Nighttime Corridors」チャレンジで、Osborn Plaza周辺地域の公共スペースの利用や夜間の活動を活性化させる技術や、コミュニティの安全を強化するソリューションを開発する提案を競うものであった。もう1つは「Zero Waste in Shared Space」チャレンジで、同じくブラウンズビルの公営住宅Brownsville Housesでのゴミの投げ捨てや不適切な廃棄物の投棄を削減しつつ、住人によるリサイクルや廃棄物削減の取り組みを促進するソリューションを開発する提案を求めた。これらのコンペを勝ち抜き、各パイロットプロジェクトへの参加が認められた企業、非営利団体、個人のチームには、それぞれ最大2万ドルの賞金を提供すると発表した(6)。MOCTOとNYCEDCは2018年4月、「Zero Waste in Shared Space」チャレンジの受賞チームとして、ニュージャージー州に拠点を置く堆肥化装置メーカーEcoRichとサウス・ブロンクスの非営利団体Mothers on the Moveを選定し(7)、2019年10月には、「Safe and Thriving Nighttime Corridors」チャレンジの受賞チーム2組織を発表し、ブラウンズビルの公共スペースを夜間に明るくするスマート街頭パイロットプロジェクトへの移行を発表した(8)。 

第2弾ではデジタルソリューションでマンハッタンの貧困層を支援

MOCTOは2020年2月、ブルックリン区に続くNYCx Co-Labs第2弾として、低所得者用集合住宅が多いマンハッタン区北部インウッド(Inwood)とワシントンハイツ(Washington Heights)での2種類のNYCx Co Labsチャレンジを発表した。なお、第2弾の発表時期は、ニューヨークにおけるCOVID-19流行前だったが、第2弾で求められたソリューションは、奇しくもロックダウンが続く中で自宅から自由に外出できない状況や孤独によって深刻化する課題解決に期待できる内容となっていた。 

まず「Housing Rights Challenge」は、同地域の賃借人が家主からの不当な立ち退き要請といったテナントハラスメントにさらされないように、これまでより効率的に、わかりやすく、賃借人の権利に関する情報を賃借人等に提供するソリューションの提案を求めた。また、「Accessible Mental Health Challenge」は、約20%が自殺を真剣に検討したことがあるという同地域に住む13歳から18歳までのラテンアメリカ系の若者(Latinx youth)が、メンタルヘルスサポートを容易に受けられるようにするソリューションを募った。受賞チームには最大2万ドルと、パイロットプロジェクトを最大1年間行う権利が与えられる(9)。

MOCTOは2020年12月、「Housing Rights Challenge」の受賞チームとして、ニューヨーク市の賃借人をスマート技術で支援する2つの非営利団体Heat SeekJustFix.nycを選定した。Heat Seekのスマート温度センサーとデータ分析ソリューションは、賃借人の室内温度に関する苦情を定量的に裏付けるものであり、家主に対して安全な住居環境を求める賃借人の主張を擁護する。一方、JustFix.nycのモバイル端末ツールは、家主による賃借人への不当な立ち退き要請や、住居設備の修繕義務を怠るといった住居問題について、賃借人の権利に関する情報の入手や家主に訴訟を起こすといったアクションを、モバイル端末から容易に実現するもので、賃借人コミュニティが情報交換をするフォーラムも用意されている(10)。

また2021年1月には、「Accessible Mental Health Challenge」の受賞チームとして、医療関連ソフトウェア開発企業NextStep HealthTechとメンタルヘルス関連コミックブック製作会社Me Myself & Iが選定された。NextStep HealthTechは、ユーザーフレンドリーなメンタルヘルス支援リソースガイドを提供する仮想ヘルス管理プラットフォームをテスト導入する他、Me Myself & Iは、メンタルヘルス問題を抱えたラテンアメリカ系スーパーヒーローを主人公としたオンライン漫画を通じて、ラテンアメリカ系の若い読者に向けてメンタルヘルス支援のリソースを提供する予定である(11)。

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