北米特集記事

ニューヨーク:脱炭素政策

執筆者 | 2022年12月29日 | 特集記事, 脱炭素政策

ニューヨーク市は、2050年の100%カーボンニュートラル実現に向け、化石燃料への依存脱却、コミュニティやインフラの強化、気候変動関連ソリューションへの投資といった脱炭素政策を打ち出してきた。2022年1月にエリック・アダムス新市長(Eric Adams:民主党)就任後も取り組みは継続されており、今後のニューヨーク市の気候変動対策に注目が集まる。

 

2050年のカーボンニュートラル実現を目指すニューヨーク市の気候変動対策

ニューヨーク市政府は、ビル・デブラシオ前ニューヨーク市長(Bill de Blasio:民主党(1))のもとで2019年4月、気候変動対策を含めた同市の今日と未来におけるさまざまな課題に取り組むための戦略「OneNYC 2050(2)」を発表した。同戦略は、ニューヨーク市の人口が2050年には900万人以上増えると試算されるなか、気候変動に対応するために化石燃料や自動車への依存の削減や、安全かつ手頃な価格の住宅や優れた雇用環境、質の高いヘルスケアや教育システムへのアクセス、近代的で信頼できるインフラ等を将来に向け確立することを目的に策定された(3)。気候変動対策の目標としては、①2050年までに100%カーボンニュートラルを実現する(2017年は17%)、②2040年までに電源に占めるクリーンエネルギーの割合を100%にする(2019年は27%)、③洪水保険加入件数を増加させる(2019年は5万3,971件)、④ニューヨーク市年金基金からの気候変動関連ソリューションへの投資を2021年までに40億ドルに増加させる(2019年は20億ドル)という4つの目標を掲げた(4)。

ニューヨーク市はOneNYC 2050のなかで、嵐や熱波等の自然災害の悪化が、世界、米国、そしてニューヨーク市の経済やインフラ、公衆衛生の脅威となっているため、気候変動の主要因である化石燃料による温室効果ガスの削減に向け、再生可能エネルギーや新しい技術を活用する必要があると指摘している(5)。OneNYC 2050では、2050年にもニューヨーク市が住みやすい都市であるために、「Livable Climate(住みやすい気候)」イニシアチブとして、①カーボンニュートラルと100%クリーンな電力の実現、②コミュニティ、建物、インフラ、水辺をよりレジリエントにする取り組み、③気候変動対策を通じた経済的機会の創出、④気候変動の正義と説明責任の追及の4つを立ち上げている。以下にその概要と施策をまとめる(6)。

 

 

ニューヨーク市の気候変動対策①:カーボンニュートラルと100%クリーンな電力の実現

2050年までにカーボンニュートラルを実現するために、100%クリーンな電源を確保する。また、建物のエネルギー効率の最適化や、自動車の利用削減に向けた公共交通機関の利用拡大及び脱炭素化、廃棄物ゼロの実現、炭素吸収源となる自然スペースの構築といった取り組みを行う。具体例としては、ブルックリンの中・低所得層向けアパートにソーラーパネルを100基設置した「Community Retrofit Program(コミュニティ改造プログラム)」や、マンハッタン北部のアパートに住む約900世帯に電力を供給するソーラパネルプロジェクト「Solar Uptown Now」等がある(7)。

 

 ニューヨーク市の気候変動対策②:コミュニティ、建物、インフラ、水辺をよりレジリエントにする取り組み

気候変動が進むにつれて、より強力で破壊的な嵐や雨量が増え、気温や海面も上昇することで、コミュニティや経済への悪影響も予想されるなか、沿岸洪水のリスク軽減、エネルギーや通信、交通、水処理等の重要インフラのリスク軽減、ニューヨーク市民、コミュニティ組織や中小企業への気候変動リスクに関する情報提供及び対策の奨励に向けたプログラムや政策を打ち出し、気候変動によるコミュニティへの物理的な打撃を軽減する。例えば、ニューヨーク市は米国陸軍工兵隊(U.S. Army Corps of Engineers:USACE)と提携し、10億ドル以上を投じて沿岸部における複数の洪水リスク軽減プロジェクトを展開しているほか、USACEとニュージャージー州、地方自治体等と共に、ニューヨーク港の包括的なレジリエンス強化ソリューションを研究するプロジェクト「New York and New Jersey Harbor and Tributaries Study」を実施している(8)。

 

ニューヨーク市の気候変動対策 ③:気候変動対策を通じた経済的機会の創出

気候変動対策を通じてニューヨーク市がグリーン経済のリーダーとして台頭するなか、この取り組みを大きな経済成長の機会と捉え、環境を保護し生活の質を向上させる産業や企業に投資するほか、教育システムや人材育成プログラムを活用し、高賃金なグリーン雇用の数を増やす。具体的には、再生可能エネルギー、エネルギー効率、その他の気候変動関連ソリューション分野への投資を2021年末までに40億ドル投じるほか、気候変動関連の職業訓練、インターンシップ、実習プログラムである「Green Jobs Corps」のような人材育成プログラムも推進しており、ニューヨーク市が抱える問題をスマート技術で解決するための起業家支援プログラムであるNYCx Co-LabsやMoonshot Challengesにも引き続き投資を続けている(9)。

 

ニューヨーク市の気候変動対策④:気候変動の正義と説明責任の追及

気候変動に大きな影響を及ぼしている化石燃料セクターに対してその責任を問い、環境の質を改善する気候変動政策を推し進める(10)。具体的には、ニューヨーク市は2018年1月、石油大手であるBPChevronConocoPhillipsExxon MobilRoyal Dutch Shellの5社に対して、化石燃料の燃焼が気候変動に影響を与えているとして訴訟を提訴している(11)。また同市の年金基金は、100社以上の化石燃料関連企業の証券約50億ドルを有しているが、これをダイベスト(投資撤退)する方針を打ち出している。同市年金基金は2022年1月、化石燃料関連企業の証券約40億ドルをダイベストすることを承認した(12)。

 

アダムス新市長の新体制が発足、脱炭素化促進に向け気候変動チームを再編成

ニューヨーク市では、任期満了となったデブラシオ前市長にかわり、エリック・アダムス氏が2022年1月に市長に就任した。アダムス市長は1月31日、ニューヨーク市全体の環境保護と環境正義に焦点を置く気候変動リーダーシップチームの任命を発表した。そのうえで、ニューヨーク市政府にこれまであった4つの環境関連部門(13)を1つに再編し合理化を図り、組織名に「気候」と「環境正義」を冠した部門Mayor’s Office of Climate and Environmental Justice(MOCEJ)を発足させた(14)。MOCEJはアダムス市長の気候変動に関するコミットメントを果たすべく、ニューヨーク市の学校や図書館、コミュニティセンター等に100メガワット相当のソーラーパネルを設置するほか、ワーズ島水資源回収施設内に大規模なクリーンエネルギー施設を建設するといった目標を掲げている(15)。またMOCEJは2022年4月、OneNYCの進捗状況をまとめたレポート「2022 PROGRESS REPORT(16)」も発表している。同レポートでは、市政府の気候変動目標の達成に向け前進がみられたことが紹介されており、MOCEJのエグゼクティブディレクターであるキジー・チャールズ・グスマン氏(Kizzy Charles-Guzman)は、2023年4月にニューヨーク市の長期的な気候変動計画を発表すると述べている(17)。

 

あわせて読みたい

 

ニューヨーク市の脱炭素政策参考ページ

出典

  1. 2022年1月1日をもって任期満了となったため、2021年ニューヨーク市長選で勝利したエリック・アダムス氏が後任として就任した。
  2. https://onenyc.cityofnewyork.us/wp-content/uploads/2020/01/OneNYC-2050-Full-Report-1.3.pdf
  3. https://onenyc.cityofnewyork.us/wp-content/uploads/2020/01/OneNYC-2050-Full-Report-1.3.pdf
  4. https://onenyc.cityofnewyork.us/strategies/a-livable-climate/
  5. https://onenyc.cityofnewyork.us/wp-content/uploads/2020/01/OneNYC-2050-Full-Report-1.3.pdf
  6. https://onenyc.cityofnewyork.us/strategies/a-livable-climate/; https://onenyc.cityofnewyork.us/wp-content/uploads/2020/01/OneNYC-2050-Full-Report-1.3.pdf
  7. https://onenyc.cityofnewyork.us/strategies/a-livable-climate/; https://onenyc.cityofnewyork.us/wp-content/uploads/2020/01/OneNYC-2050-Full-Report-1.3.pdf
  8. https://onenyc.cityofnewyork.us/strategies/a-livable-climate/; https://onenyc.cityofnewyork.us/wp-content/uploads/2020/01/OneNYC-2050-Full-Report-1.3.pdf
  9. https://onenyc.cityofnewyork.us/strategies/a-livable-climate/; https://onenyc.cityofnewyork.us/wp-content/uploads/2020/01/OneNYC-2050-Full-Report-1.3.pdf
  10. https://onenyc.cityofnewyork.us/strategies/a-livable-climate/; https://onenyc.cityofnewyork.us/wp-content/uploads/2020/01/OneNYC-2050-Full-Report-1.3.pdf
  11. https://www.washingtonpost.com/news/energy-environment/wp/2018/01/10/new-york-city-sues-shell-exxonmobil-and-other-oil-majors-over-climate-change/; 同訴訟は2021年に米連邦控訴裁判所によって却下された。https://www.reuters.com/article/us-global-warming-new-york/oil-companies-defeat-new-york-city-appeal-over-global-warming-idUSKBN2BO5O0
  12. https://www.reuters.com/lifestyle/wealth/nyc-pension-funds-vote-divest-4-bln-fossil-fuels-2021-01-25/
  13. ①Mayor’s Office of Climate Resiliency、②Mayor’s Office of Climate and Sustainability、③Mayor’s Office of Environmental Coordination、④Mayor’s Office of Environmental Remediation
  14. https://www.nyc.gov/office-of-the-mayor/news/053-22/mayor-adams-appointments-climate-leadership-team-streamlines-multiple-city#/0
  15. https://www.nyc.gov/office-of-the-mayor/news/053-22/mayor-adams-appointments-climate-leadership-team-streamlines-multiple-city#/0
  16. https://onenyc.cityofnewyork.us/wp-content/uploads/2022/05/OneNYC-2022-Progress-Report.pdf
  17. https://onenyc.cityofnewyork.us/wp-content/uploads/2022/05/OneNYC-2022-Progress-Report.pdf

北米最新特集記事

ボストンの気候テック・エコシステム⑤:気候テック・スタートアップへの重層的な支援

ボストンの気候テック・エコシステム⑤:気候テック・スタートアップへの重層的な支援

前項まで、ボストンの気候テック・エコシステムの主要なハブとして、グリーンタウン・ラボ、MIT、マサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センターを取り上げてきたが、ボストンを中心にマサチューセッツ州内には、気候テック・スタートアップを支えるまだまだ多くの支援機関やプログラムが存在する。【インキュベータ...

ボストンの気候テックエコシステム④:気候テックの実証促進「マサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センター」

ボストンの気候テックエコシステム④:気候テックの実証促進「マサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センター」

気候テックの多くは、商用化までに長い年月を要するため、民間投資のみで成長させることが難しく、公的な支援が必要とされている。ボストンの気候テックへの政府系支援で大きな役割を担っているのが、準公的機関であるマサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センター(MassCEC)である。[1]...

ボストンの気候テックエコシステム③:気候テック人材の源泉「マサチューセッツ工科大学(MIT)」

ボストンの気候テックエコシステム③:気候テック人材の源泉「マサチューセッツ工科大学(MIT)」

グリーンタウン・ラボのメンバー企業・卒業企業の創業者は、マサチューセッツ州内の大学出身者であることが多い。特に、マサチューセッツ工科大学(MIT)出身者が創業したスタートアップは、グリーンタウン・ラボの全メンバー企業・卒業企業の中で最も多いおよそ4分の1を占める。[1] このことは、MITがボストン...

米国気候テックイベントとスタートアップの興隆

米国気候テックイベントとスタートアップの興隆

2022年、米国では、気候変動を解決するための技術(以下、気候テック)に関する、実に多彩なイベントが開催された。米国にはシリコンバレーに代表されるように、人材が集まり、新興企業(以下、スタートアップ)が次々と誕生しては淘汰され、その中でイノベーションが創発されるエコシステムが都市や地域に存在する。地...

Indo Japan Cultural Festival に参加

Indo Japan Cultural Festival に参加

1月21日(土)と22日(日)に本市の姉妹都市であるインド・ムンバイ市のWorld Trade Centreで、印日協会主催の「Indo Japan Cultural Festival」...