北米特集記事

北米スマートシティ:マサチューセッツ州ボストン (Boston, MA)

執筆者 | 2021年4月17日 | 北米スマートシティ, 特集記事

マサチューセッツ州の州都ボストンは、国際標準化機構(International Organization for Standardization:IOS)が2014年に制定した持続可能な都市と都市サービスとクオリティオブライフの指標「ISO37120」の認定を米国で最も早く受けた都市である(1)。ボストン市政府は現在、課題を抱えているコミュニティと、その解決に貢献できそうな企業、研究者、デザイナー、アーティストとの間に、有意義な関係を構築し、市民主導のイノベーションを生み出す実証実験イニシアチブBeta Blocksを進めている。そこで本稿では、ボストンのスマートシティの取組として、Beta Blocksの事例を概観する。

 

ボストンのスマートシティ:市民にとって真に価値のあるスマートシティ作りを目指すBeta Blocksイニシアチブ

ボストン市長新都市メカニクス室(City of Boston Mayor’s Office of New Urban Mechanics)は2019年5月、ボストンにあるコミュニケーション学で著名なEmerson Collegeの応用研究・設計ラボThe Engagement Labと、マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置く都市開発スタートアップ企業Supernormalと共に、ボストンが抱える都市問題について、ボストン市政府、テクノロジー関連企業、地元コミュニティが一丸となって解決する方法を実証実験や議論を通じて模索するスマートシティ・イニシアチブBeta Blocksを発足した(2)。

Beta Blocksでは、真のスマートシティとは、各住民がそれぞれのニーズに合わせて定義づけ、価値を見出すことができるものであるべきであるという考えに基づき、以下の3つの課題に取り組んでいる。①スマートシティ関連ツールの市民にとっての価値や、こうしたツールを活用することによるプライバシー上の懸念などについて公開議論できる場を創出する。②スマートシティ関連技術の実証実験を行うための明確なプロセスやポリシーを確立する。③公共の場で、スマートシティ関連ツールやデザインを、コンピューター分野で言うプラグ・アンド・プレイ(Plug and Play)のように容易に実装できるような環境を作る(3)。

住民からの意見を取り入れる具体的な取り組みとして、Supernormalがボストン市内の各地で、「Beta Blob(4)」と称するスマートシティ技術を紹介する展示会を開催し、どのような技術が生活の質向上やコミュニティが直面している問題解決につながるかについて地域住民と直接コミュニケーションを図っている(5)。また、Beta Blocksでは、スマートシティ関連技術の実証実験を行うために、ボストン市内のチャイナタウン(Chinatown)、ドーチェスター(Dorchester)、ローワー・オールストン(Lower Allston)の3地域について、それぞれ4街区(ブロック)で構成された探求ゾーン(Exploration Zones)と称する実証実験専用地域を指定している(6)。これらの探求ゾーンでは、The Engagement Labがテクノロジー関連企業と提携して、期間限定的なスマートシティ技術の実証実験を行っている。実証実験に参加した住民から集められたフィードバックについては、ボストン市政府及び参加企業に共有されている(7)。

Beta Blocksの財源は、フロリダ州マイアミに拠点を置く非営利財団Knight Foundationが2017年4月に発表したIoT技術が都市にもたらす影響を理解するためのスマートシティグラントから受給した20万ドルと(8)、メディア大手Bloombergの創始者で前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏(Michael Bloomberg)が設立した慈善事業Bloomberg Philanthropiesのイノベーションチームプログラムからの助成金で賄われている(9)。

なお、ボストン市政府では、Beta Blocks発足以前より進めているスマートシティ開発イニシアチブとして、自動運転、スマート・ストリート、ロボット関連の実証実験にも取り組んでいる(10)。

 

地元スタートアップからテクノロジー大手まで参加するBeta Blocksの実証実験プロジェクト

ボストンのスマートシティ・イニシアティブ「Beta Blocks」では、上記の3か所の探求ゾーンにおいて、地元のスタートアップ企業からスマートシティ技術専門企業、テクノロジー大手まで様々な企業と連携してスマートシティ技術の実証実験を行っている。以下にその一例を紹介する(11)。

 

ボストンのスマートシティ・イニシアティブ①: 歩道設置用ソーラーパネル付きデジタル・ディスプレイSoofa Signs

参画企業:マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology:MIT)からスピンアウトしたボストンのスタートアップ企業Soofa

Soofaが開発したソーラーパネル付き歩道設置用デジタル・ディスプレイSoofa Signsは、同社の専用ウェブサイトでアカウントを作成し情報を入力することで、民間企業や地方自治体等がコンテンツ、広告や通知を表示できるものである。地元ニュース・イベント、緊急情報、交通案内、ボストン市政府のソーシャルメディアフィード等様々なコンテンツがリアルタイムで表示できる他、ゼロエミッションで環境に優しいのが特徴である(12)。同ディスプレイの購入費及び保守管理費は広告料によって賄われ、購入費の支払いが完了した後は広告料の20%がボストン市政府に入るシステムになっている。Soofaは2019年8月に、ボストン最大の新聞社The Boston Globeと提携し、同紙のコンテンツをSoofa Signs上で発信している(13)。また、同ディスプレイには周辺にあるモバイル端末を探知するセンサーが搭載されており、公園等への訪問者数や平均滞在時間といった匿名データを収集・分析するといった機能も搭載されている。

 

ボストンのスマートシティ・イニシアティブ② :駐車違反取締り歩道センサーSafetyStick

参画企業:ミネソタ州ミネトンカに本社を置くスマートシティ関連ソリューション開発企業Municipal Parking Services:MPS

MPSが開発した、歩道設置型の高さ約1メートルの円柱型センサーSafetyStickは、ボストン市内のバス停や荷積み区域、消火栓の前等に長時間に亘り違法駐車している自動車を特定し、路上駐車管理当局に通知する他、自動車の所有者に証拠写真付きの罰金支払い命令書を郵送する。SafetyStickの設置・保守管理費は無料で、ボストン市政府は駐車違反の罰金収入の一部をMPSに支払っている。

 

ボストンのスマートシティ・イニシアティブ③: 大気質センサー(Air Quality Sensor)

参画企業: Microsoft

Microsoftの研究部門Microsoft Researchが主導する同プロジェクトでは、ボストン市内に最短で約40メートル間隔に設置された大気センサーで、空気中のガスや微粒子の量を1時間毎に計測し、主要道路から距離が離れることで大気汚染が消散することを実証している。このセンサーで収集されたデータは、MicrosoftのクラウドデータベースMicrosoft Azure SQLに保管され分析される。また、ボストン住民はこのプロジェクトを通じて、自らがどの様な空気に接しているかを把握できる他、大気質の改善に向けた植林や交通ルートの改善について市政府にフィードバックを提供することもできる(14)。

 

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