80年代のニューヨーク市の治安は悪く、シリコンアリーの発祥の地、フラットアイロンにあるマディソンスクエアパークもその頃はホームレスで溢れていた。アーチスト達は家賃が安いソーホーのビルを仲間と共同で借り活動をしていた。しかし80年代も半ばに入ると、ソーホーやトライベッカのような元倉庫のビルに好んで住む人が現れ始める。90年代に入りマンハッタンの治安は良くなり始め、年を追うごとに不動産の価格が上昇していく中で、アーチストやパフォーマーは家賃が低いブルックリンに移り工場や倉庫跡地をスタジオとして利用するようになる。ライブハウスやバーなどもでき始め個性的で最先端の芸術を目指す人達がブルックリンを活動と生活の拠点とするようになっていく。

 

90年代も後半になるとニューヨーク市が本来持つ個性と多様性を求めて、テック企業に勤める人、若い弁護士や銀行家などのプロフェッショナルもマンハッタンからブルックリンに移るようになりジェントリフィケーション(高級化)が進んでいく。2000年以降ブルックリンはブランド化し、ミレニアルはブルックリンを選んで住むようになる。

 

(1) ウィリアムズバーグ

街の高級化が進む前のウィリアムズバーグはプエルトリコからの移民が多く住み、隣のグリーンポイントと合わせると60年代には人口の三分の一がプエルトリコからの移民であった(1)。ウィリアムズバーグは地下鉄L線に乗りブルックリンの一つ目の駅がベッドフォードアベニュー駅で、この駅を中心にライブハウス、ギャラリー、レストラン、バー、カフェ、ブティックなどがオープンし周辺に広がっていった。洗練された荒削りな芸術をエッジーに発信するのがウィリアムズバーグと言えるであろう。

 

ベッドフォードアベニューからイーストリバーに向かったノースストリートエリア(North Streets – N 1st – N 15th )のワイスアベニュー(Wythe Avenue)にはお洒落なブティックホテルが立ち、地ビールの老舗的存在ブルックリンブリュアリー(Brooklyn Brewery)や倉庫を利用したバーや音楽スポット、レストランなどがある。アマゾン・ミュージック(Amazon Music)も25 Kentのオフィスビルに2021年に入居予定、またグリーンポイントとの間にはアディダス・ブルックリン・クリエーターファーム(Adidas Brooklyn Creator Farm)などデザイン系クリエイティブが集まる。

 

南のサウスストリート(South Street – S 1st – S 11th )側にはヴァイスメディア(Vice Media)のオフィスがあり、また川沿いのケントアベニュー(Kent Avenue)にはかつてのドミノシュガー(Domino Sugar)精白工場跡地の住宅とオフィス複合ビルの巨大再開発が現在も続いている。開発の一部ウォーターフロントの公園、Domino Parkは2018年にオープンしている。

 

(2) グリーンポイント

グリーンポイントはポーランドからの移民が多く住んでいたエリアで、高級化の波が押し寄せる前はポーリッシュソーセージを売る惣菜屋などが点在していた。目抜き通りは南北に走るマンハッタンアベニュー(Manhattan Avenue)と東西に走るグリーンポイントアベニュー(Greenpoint Avenue)。川に近いフランクリンストリート(Franklin Street)にもレストランやバーが相次ぎオープンしている。地下鉄Gラインが同エリアを南北に繋ぎ北はロングアイランドシティ、南はウィリアムズバーグのLと繋がるため、マンハッタンへのアクセスも良い。

 

ウィリアムズバーグの家賃が高くなってきたため、土地つながりでウォーターフロントのグリーンポイントに人が流れたのが高級化のきっかけではあるが、今では同地域を選んで住む人、他地域からお客を呼ぶレストランなどもオープンをしている。2020年2月にはBrookfield Propertiesがかつての工場地帯に開発した、大型住宅開発グリーンポイントランディング(Greenpoint Landing)がオープンしている(2)。

 

(3) ダンボ

ダンボ地域はブルックリンの中で観光客が最も多く訪れるエリアと言えるであろう。それはブルックリン橋を渡りイーストリバーの対岸に見えるマンハッタンの景色とブルックリンブリッジパークから眺めるブルックリン橋の景観が人を呼ぶのはもちろん、石畳の通りで週末催される恒例のフリーマーケットはさながらヨーロッパにいるような雰囲気もある。レンガ作りのかつての倉庫を利用したエンパイアモール(Empire Mall)にはレストランやフードホールが一階に入り上層階にはメンバー制クラブ、ソーホハウス(SoHo House)のニューヨーク3番目のロケーションがダンボハウス(DumboHouse)として入居している。かつて倉庫だったセントアン・ウェアハウス(St. Ann’s Warehouse)は前衛的なパフォーマンスを上演する劇場で文化発信の空間だ。2017年にオープンしたワンホテルブルックリンブリッジ(1 Hotel Brooklyn Bridge)はルーフトッププール、部屋から見える緑の豊かさや長めの良さでも話題になり、アンテナを高く張る人達はダンボの新たな動きに注目している。

 

ダンボにはEコマースのEtsyのオフィスがある。ウェルネスのコンセプトをビル全体に取り入れたオフィスは企業のオフィス特集にも取り上げられこともある。税優遇策が功を奏してブルックリンにオフィスを持つテックスタートアップも多く、デベロッパー、Two Trees Managementのダンボのオフィスビル3棟にもスタートアップが入っている。そのうちの55 Washington AvenueにはVice Mediaのオフィスがあった(現在はウィリアムズバーグ)。

 

しかし同地域は他へのアクセスが不便なのがネックだ。ブルックリンの他地域への移動もさることながら、マンハッタンと繋ぐ地下鉄も比較的本数が少ないラインが入っており駅もダンボの中心街ではない。The Wall Street Journalはダンボのこの地理的なデメリットがハードルというスタートアップの話を載せている(3)。また大手企業が東海岸でエンジニアの数を増やしていけばスタートアップにとっては人材確保がますます不利になるであろうと指摘する。

 

パンデミック後リモートワークやハイブリッドな働き方の浸透で自宅からの仕事が増える場合、多くのミレニアルやジェンZが住むブルックリンをサテライトオフィスの立地として選ぶ企業も出ることも考えられる。オフィスを持たずともコワーキングを利用する企業は出てくるであろう。

 

(1) Geoff Cobb, Puerto Rican’s vibrant history in north Brooklyn, GREENPOINTERS, November 2, 2018
(2) https://www.brookfieldproperties.com/en/our-approach/case-studies/greenpoint-landing.html
(3) Kate King, Brooklyn startups face speed bumps, The Wall Street Journal, December 15, 2019

 

ウィリアムズバーグ/グリーンポイント/ダンボに立地する主なテック企業オフィス:

Kickstarter、Vice Media、Amazon Music、Etsyなど

 

※記載内容は、2021年3月31日時点の情報。

 

【執筆者】

Miki-Hall Motegi / 茂木ホール美紀, Whitebox CRE Solutions, President.

神奈川県茅ヶ崎市生まれ。1990年にニューヨークに渡る。全日空ニューヨーク支店で北米予算とプロモーションを担当。第二子出産後に、日本政府観光局(JNTO)のニューヨーク支店で国際会議誘致を担当する。夫の仕事の関係で2011年から3年半を南麻布で過ごした後、2014年の夏にニューヨークに戻りミレニアル世代とジェンZの母親達のワークライフバランスの実現に向けての姿勢と葛藤、また仕事に対する考え方の変化などについて育った環境や人種も異なる母親達に取材をする。

2016年にIT企業やスタートアップをクライアントにもつ米系商業不動産リーシングファーム、ヴァイカスパートナーズに入りオフィス仲介業をする傍ら、商業不動産のランドスケープの変化からミレニアル世代の特徴と働き方への意識の変化を分析。JETRO IPA ニューヨーク主催の「ニューヨークスタートアップエコシステム」の日本セミナーでは、同市スタートアップエコシステムに関わる欧米人6人と共にスピーカーとして参加。その後もオフィス形態やデザイン、オフィス立地の変化などからミレニアル像を分析する講演を行う。2020年に1月にWhitebox CRE Solutionsを設立。イノベーションと空間をテーマに、コワーキングスペースやイノベーションハブのツアー、また商業不動産やプロップテック(プロパティーテクノロジー)の動向について講演や執筆を始める。新型コロナ禍でリモートワークが浸透する中、新たな日常での働き方とワークプレイスについて調査を続けている。現在ニューヨークのブルックリン地区に高校卒業前の息子と愛犬ブルックリン、そして夫と暮らす(長女は大学寮にいる)。

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