ミドルセックス郡の地理と交通
ミドルセックス郡は、マサチューセッツ州の中央部北に位置し、ニューハンプシャー州と接している(Google Map)。ミドルセックス郡の郡政府は1997年に廃止された。郡政府廃止以前に郡庁所在地があったのはケンブリッジ市(Cambridge)とローウェル市(Lowell)である。ミドルセックス郡に最寄りの国際空港は、ジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港(General Edward Lawrence Logan International Airport)である。マサチューセッツ湾交通局(Massachusetts Bay Transportation Authority:MBTA)がミドルセックス郡を含むボストン都市圏の地下鉄、ライトレール、バスなどの公共交通機関を運行するなど、公共交通機関が充実しており、多くの住民や観光客が利用している。
ミドルセックス郡の統計(人口、産業)
ミドルセックス郡の人口は1,602,947人(2017年、米センサス)で、マサチューセッツ州で最大の人口を持つ。白人の79.2%(全米:76.6%)に続き、アジア系12.3%(全米:5.8%)とアジア人が多い傾向がみられる。25歳以上にしめる最終学歴が学士卒業以上の割合は54.1%(2013-2017年)で、全米の30.9%を20ポイント以上上回っている。平均所得は92,878ドル(2013-2017年)で、全米平均の57,652ドルの約1.6倍と高所得層の多い地域となっている。
産業については、専門的・科学的・技術的サービス業や情報産業および教育サービス業の雇用が全産業合計に占める割合が、全米平均と比べて高くなっている(2016年、米センサス)。
ケンブリッジ市―世界トップのハイテクラスターの中心地
マサチューセッツ州は世界トップクラスのハイテク州として世界的に有名であり、米国シンクタンクのミルケン研究所(Milken Institute)による州別技術・科学インデックス(State Technology and Science Index)では数年間に亘って1位を堅持している。その中心となっているのがボストン市(サフォーク郡:Suffolk County)とケンブリッジ市周辺地域である。同地域は、全米商工会議所らによる新興企業ビジネス支援環境ランキング「Innovation that Matters」や遺伝子工学・バイオテクノロジー関連ニュースメディアGENによる2018年全米バイオ医療クラスターランキング で1位となり、Analytics Insightによる世界の人工知能ハブ6地域ではニューヨーク‐ボストン地域として名前が挙がっている 。
そのうち、ミドルセックス郡にあるケンブリッジ市には、世界トップクラスを走り続けるハーバード大学(Harvard University)やマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology:MIT)がある。両大学はケンブリッジ市における雇用ランキングで、ケンブリッジ市政府の雇用数(3位、3,173人、2018年ケンブリッジ市データ)を抜いて、それぞれ1位と2位であり(ハーバード大学:12,595人、MIT:9,194人)、地域経済の要となっている 。MITに近いケンドール・スクエア(Kendall Square)周辺とハーバード大学に近いハーバード・スクエア(Harvard Square)周辺には、数多くのスタートアップ企業が起業しており、こうした企業をサポートするアクセラレーターやインキュベーター、さらにコーワーキング・スペースが数多く設立されている。中でもケンブリッジ・イノベーション・センター(Cambridge Innovation Center: CIC)は大規模で、600社以上の企業が入居し、総雇用数は1,700人以上にのぼっている(2018年ケンブリッジ市データ )。2018年秋には、ライフサイエンス産業向け不動産提供に特化した大手不動産投資信託会社(real estate investment trusts:REITs)Alexandriaが、ライフサイエンス・スタートアップ企業向けに特化した研究スペースLaunchLabsをケンドール・スクエアの一角にオープンした 。同地域でのイノベーション拠点開発は今後も続くと見られる 。
スタートアップ企業に限らず、グローバル企業の拠点も数多く集積している。IT関連ではAkamai、Amazon、Apple、Facebook、Google、Hewlett-Packard、IBM、Microsoft、Oracle、Twitterなど、またライフサイエンス関連ではAmgen、AstraZeneca、Bayer、Biogen、Celgene、Eli Lilly、Johnson and Johnson、Novartis、Pfizer、Sanofi、Shire、武田薬品工業などが含まれる(ケンブリッジ市オープンデータ、Life Sciences and Technology Listing: May 2018)。また、ケンブリッジ東部で現在開発中のケンブリッジクロッシング(Cambridge Crossing)プロジェクトには、巨大な最新の科学技術企業向けビル(約210万平方フィート)の建設が予定されており、この中にフィリップス・ノースアメリカン・イノベーションセンター(Philips North American Innovation Center)が設立されることが発表されている。
サイバーセキュリティやロボティックス関連企業が集積するミドルセックス郡
このようにボストン・ケンブリッジ地域にばかり注目が集まりやすいマサチューセッツ州のハイテククラスターだが、サイバーセキュリティ分野では、ボストン・ケンブリッジ近郊のミドルセックス郡にある都市に、世界的な企業が多く立地している。
Cybersecurity Magazineがまとめた2018年世界サイバーセキュリティ企業ランキング500(Cybersecurity 500)には、354社の米国に本社を置く企業がランクインした。このうち上位100位以内に入った米国企業は69社で、州別企業数ではカリフォルニア州の31社に続き、マサチューセッツ州は13社で2位だった。上位100社に入ったマサチューセッツ州企業のうちボストン市に本社を置く企業は3社で、残りの10社はミドルセックス郡(うちケンブリッジ市:1社)であった。ミドルセックス郡の主な企業には、Raytheon Cyber(4位、ウォルサム市:Waltham)、IBM Security(6位:ウォルサム市)、RSA(12位、ベッドフォード市:Bedford)などが含まれる。また、マサチューセッツ州におけるイノベーション環境整備を担う経済開発組織、マサチューセッツ・テクノロジー・コラボレーティブ(Massachusetts Technology Collaborative:MassTech)によれば、マサチューセッツ州のサイバーセキュリティ関連企業の数は2018年5月現在140社を超え、その半数以上がミドルセックス郡に集積している。
この他、ミドルセックス郡にはロボティックス関連の企業も多い。調査会社ABI Researchが2016年9月に発表したマサチューセッツ州のロボティックス・クラスターに関する調査によれば、同州には120社以上のロボティックス関連企業があり、4,700人以上の雇用を創出していることがわかった。これらの企業の半数以上がミドルセックス郡に拠点をおいている。代表的な企業には、ウォルサム市のBoston DynamicsやRaytheon、ベッドフォード市のiRobotのほか、ノース・リーディング市(North Reading)のAmazon Roboticsなどがある。