米国都市の脱炭素政策と気候テックエコシステム
脱炭素社会に向けて、官民が一体となった取り組みやイノベーションが求められている。民間セクターにおいては、気候変動に関する技術(気候テック)によるイノベーションを目指すスタートアップの存在感が増してきている。2022年に入り、ベンチャー投資が全般的に減速しているなか、気候テック領域においては前年を89%上回る驚異的な伸びを示している(Holon IQ, Jan. 2023)。
世界的に北米地域の存在感は大きい。先進都市のリーダーは、脱炭素に向け野心的な規制やプログラムなど、様々な政策・事業を打ち出している。併せて、脱炭素の先進都市には、大学、行政機関、インキュベーター・アクセラレーターなどの重層的な支援が、気候テック領域の起業家やスタートアップを後押しし、大きな投資を呼び込んでいる。そこで、PWCの「2021年版気候テックの現状(State of Climate Tech 2021)」レポートにおいて、最も投資が活発だった投資ハブ(Top 5 investment hubs、2020年下半期~2021年上半期)世界上位5都市のうち、北米3地域を対象に、米国都市の脱炭素政策と気候テック・エコシステムを紹介する。
米国都市の脱炭素政策については、脱炭素社会に向けて各自治体が公表している最新の脱炭素目標、具体策などを中心に整理する。また、各地域の気候テック・エコシステムについては、サンフランシスコとボストンでは、これらの地域から誕生した気候テックのユニコーン企業に注目し、これら企業の誕生・成長を支えてきた様々なステークホルダーを取り上げることで、地域の気候テックを取り巻くビジネス環境を紹介する。また、ニューヨークについては、気候テックエコシステムのグローバル拠点設立に向け、自治体も参加した新たな取り組みが始まっていることから、その最新動向をお伝えする。
サンフランシスコ・ベイエリア |
サンフランシスコ市政府における脱炭素政策は、サンフランシスコ気候変動実行計画(San Francisco Climate Action Plan:CAP)に基づき、歴代市長の下で継続的に取組まれてきた。本稿では、サンフランシスコ市「気候変動実行計画」を中心に、ネットゼロをいかに達成しようとしているのかについて、サンフランシスコ市の気候変動政策を概観する。 |
2020年後半から2021年前半にかけて世界最大の気候テック投資となる566億ドルを集めた北米において、最も活発な投資ハブとされたのがサンフランシスコ・ベイエリアだった。本稿では、太陽光発電ソフトウェア開発のAurora Solarと、フードテックPerfect Dayの2社を取り上げ、世界中のステークホルダーを巻き込むサンフランシスコ・ベイエリアの気候テック・エコシステムの一端をご紹介する。 →【特集記事】サンフランシスコ・ベイエリア:気候テック・エコシステム(ケーススタディ) |
|
ボストン |
ボストン市の気候変動実行計画2019年版では、稼働に化石燃料を必要としてきたほぼ全ての物のエネルギー転換、100%カーボンフリーの電力購入といった政策が提示された。本稿では、気候変動実行計画に掲載されている、ボストン市の政策と脱炭素へのインパクトが期待される主な取り組みを概観する。 |
本稿では、ボストンの気候テック関連のユニコーン企業のなかから、①ボストン地域にあるVCからの支援を基盤に成長を遂げたアグリテック開発企業Indigo Ag、②今や出身大学における研究開発を促進させる原動力にもなっている核融合技術開発企業Commonwealth Fusion Systems(CFS)、➂ボストンを代表するクリーンテック・アクセラレーターの誕生の契機となった先進エネルギー貯蔵技術開発企業Form Energyを紹介する。 |
|
ニューヨーク |
ニューヨーク市は、化石燃料への依存脱却、コミュニティやインフラの強化、気候変動関連ソリューションへの投資といった政策を打ち出してきた。本稿では、同市の今日と未来におけるさまざまな課題に取り組むための戦略「OneNYC 2050」の中から、気候変動にかかる目標や取り組みを概観する。 |
デブラシオ前市長とTrust for Governors Islandは2021年6月、ニューヨーク市ガバナーズ島に気候ソリューションセンターを設立するためのグローバルコンペを行うことを発表した。 →【特集記事①】ニューヨーク市の気候ソリューションセンター計画 ニューヨークでは、州全体のクリーンエネルギー推進や気候テックスタートアップ支援において、州によって設立された公益法人ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)が大きな役割を果たしている。 |
|
気候テック・イベント |
2022年、米国では、気候テックに関する、多くのイベントが開催された。サンフランシスコ・ベイエリア、ボストン、ニューヨークといった都市・地域には、気候テック・スタートアップのエコシステムが存在し投資を呼び込んでいる。そこで、本稿では、2022年、これらの地域で開催された、気候テック・エコシステムの強靭さを象徴するような様々なイベントを振り返る。 |