「自動車の街」デトロイトを中心に、自動車産業を核に発展してきたミシガン州は、次世代モビリティでも全米をリードする存在を目指し、産官学が連携して様々な取り組みを行ってきた。特に「自動運転」への期待は高い。こうしたなか、デトロイトから西へ車で45分ほどのところにある、州を代表する実証実験施設「Mcityミシガン州アナーバー)」は、2019年9月、米通信大手Verizonの第5世代移動通信システム(5G)を利用して、自動運転自動車の実用化に向けた、自動車運転及び歩行者の安全性を向上させる様々な5Gソリューションのテストを開始することを発表した(1)。

世界初の自動運転自動車テスト施設Mcity(エムシティ)のエコシステム

Mcityは、全米でもトップクラスの研究機関として有名な州立大学のミシガン大学(University of Michigan)と複数の官民パートナーが2015年に合同で設立した世界初の自動運転車試験施設である。同施設では、自動運転の安全性、効率性、アクセシビリティ、経済的実現可能性について、複数の研究が行われている。

ミシガン大学北キャンパスの32エーカー(約13万平方メートル)の敷地に、実際の町と同じような道路環境をイメージして設計されたMcityでは、連邦運輸省(U.S. Department of Transportation:DOT)、ミシガン州運輸省(Michigan Department of Transportation:MDOT)、アナーバー市政府(The City of Ann Arbor)をはじめとする連邦・州・地方自治体パートナーと、日米の自動車・自動車部品メーカーや、Verizon、保険大手StateFarmなどの産業パートナー、ミシガン大学関連組織(工学部及び運輸研究所)が連携してエコシステムを構築している(2)。

業界 主なパートナー
産業界(リーダーシップサークル) Aptiv株式会社デンソーEconoliteEconoliteFordGM本田技研工業、StateFarm、トヨタ自動車、Verizon
産業界(アフィリエイト) 3MDaikin America日立製作所IntelIsuzu Technical Center of America, Inc.Siemens Digital Industry Software IndustrySUBARU
政府 アナーバー市政府(City of Ann Arbo)、ミシガン州運輸省(Michigan Department of Transportation)、ミシガン州経済開発公社(Michigan Economic Development Corporation)、連邦運輸省(U.S. Department of Transportation)、連邦エネルギー省(U.S. Department of Energy
ミシガン大学 工学部(U-M’s College of Engineering)、UM運輸研究所(U-M’ University of Michigan Transportation Research Institute)、UMエネルギー研究所(U-M Energy Institute

Mcityにおける研究開発を支えるのが、これらの産官学パートナーである。研究活動への参加だけではなく、様々な活動を支える資金面においても、こうしたパートナーの協力が欠かせない。Mcityは設立当初、建設費1,000万ドルをミシガン大学とMDOTが負担したほか、MDOTは、公道で使用済みとなった信号、標識、その他の交通関連機器も提供した(3)。さらに運用資金については、「リーダーシップサークル(Leadership Circle)」メンバー企業15社から3年間に亘り各100万ドル、アフィリエイト(Affiliates)メンバー33社から3年間に亘り各15万ドルを集めた(4)。2017年10月には、リーダーシップサークル11社が第2フェーズの資金として、3年間に亘り各100万ドル、計1,100万ドルを提供することも発表された(5)。Mcityの2019年年次報告書によると、Mcityと提携している産業パートナーは59社に上る。Mcityで実施中の研究開発プロジェクトは24件で、これまでに行われた研究開発プロジェクトへの資金の累計は2,820万ドルに達した(2020年2月に発表された2019年年次報告書のデータ)(6)。

こうした様々なパートナーの参加を呼び込むMcityの施設は5G導入以前から、自動運転技術の研究開発のための様々な最先端技術が導入されてきた。例えば、ワイヤレス、光ファイバー、イーサネットおよび高精度のリアルタイムキネマティックポジショニングシステムといった最先端の計測機器を施設全体に導入、これらを使用して交通活動に関するデータが収集できる。また、特許出願中の拡張現実(augmented reality:AR)を使った試験技術により、施設内でリアルタイムに物理的な試験車両と仮想接続車両のシステム間で相互にやり取りすることができるようになっている。こうしたテスト用トラック施設に加え、コンピューティングリソースも整備されている。Mcityの分野横断的な研究プログラムで必要となる深層学習モデリングやAIワークロードのシミュレーションといったハイパフォーマンスなコンピューティングニーズに応えるため、ミシガン大学はテクノロジー大手Dell Technologiesのストレージ部門Dell EMCと提携し、半導体大手NVIDIA製高性能GPUを搭載したスーパーコンピュータを導入している(7)。

 Mcityにおける先端研究の担い手は、ミシガン大学の優秀な教授陣や学生である。工学、公共政策、法律、ビジネス、社会科学、都市計画など、ミシガン大学の傘下にある数多くの学部・学科等が、Mcity関連プロジェクトに携わっている。Mcityの2019年年次報告書によれば、120人を超える同大学の院生・学部生が、Mcity関連の活動に参加していると報告されている。

 

5G時代の幕開けで自動運転関連の通信ポテンシャルも飛躍的に拡大

Mcityでは、2015年11月にFordが自動運転車をテストすると発表(8)して以来、様々な自動運転車・コネクテッドカーおよび関連技術のテストやデータ収集が行われてきた。5G分野については、2019年9月にリーダーシップサークルのメンバーであるVerizonが、Mcityでの5Gの運用を開始し、5G対応カメラによる交通パターンの特定による衝突事故の防止といった5Gソリューションのテストが始まった(9)。5G対応カメラをMcity施設全ての交差点に設置したのは、Verizonと同じくリーダーシップサークルメンバーで、カリフォルニア州アナハイムに拠点を置くスマート信号機ソリューション開発企業Econoliteである。Mcityでテストを行う全てのメンバーは、Verizonの5Gが利用できるようになり、既存の自動運転技術を向上させるだけでなく、交通安全向上のための全く新しいアプリケーションが創り出されることが期待されている(10)。

 Verizonの5Gは、標準規格NR方式によるものであるが、5G対応カメラや車両間の通信技術などは実用化前の段階であり、Mcityでのテストを通じた標準化活動の本格化にも期待が高まっている。また、超高速・低遅延という5Gの特性を活かして、車両間の通信だけでなく、車両と信号、通行人、緊急車両との通信も向上させ、5Gを自動運転車両のバックボーンとして確立させることも目標として掲げられている(11)。

なお、2020年に入り新型コロナウイルス問題の影響で、Mcityのテスト施設は閉鎖されていたが、現在は非接触方式でテストが再開されている(12)。

 

参考記事(アクセス:2020年8月13日):

参考統計(ミシガン州アナーバー)

ミシガン州アナーバー統計