見本市やビジネスコンベンションの開催地として世界的に著名なネバダ州ラスベガスでは、ラスベガス市政府が、都市部にスマートシティ技術の試験サイトとしてイノベーション地区(Innovation District)を展開している。また、同市政府は2019年9月、スマートシティ関連企業のテクノロジーハブとしてラスベガス国際イノベーションセンター(International Innovation Center @ Vegas:IIC@V)を開設、イノベーションの牽引役となる企業の誘致戦略にも取り組んできた。同市は現在、パブリック5Gネットワークの構築も進めており、スマートシティのモデル都市となるための通信基盤の充実を図ろうとしている。

ラスベガスのスマートシティ計画の中核を成すイノベーション地区とIIC@V

ラスベガス市は2025年までにスマートシティのモデル都市となるという目標を掲げている。その目標を実現する一歩として、ラスベガス市評議会は2016年、145万ドルの予算を投じて、ダウンタウンにイノベーション地区を構築する計画を採決した。ラスベガスのダウンタウンほぼ全域と、隣接する芸術家の拠点であるアート地区(Las Vegas Arts District)にまたがるイノベーション地区では(1)、センサー技術など、モノのインターネット(Internet-of-Things:IoT)技術を利用した交通インフラの整備が進められており、こうした取り組みを通じた地域経済の活性化や官民パートナーシップの促進が期待されている(2) 。

同地域で重点的に行われている主なプロジェクトは、①スマートシティ(3)、②自動運転車(4)、③コネクテッドコリドー(5)、④オープンデータ(6)の4つに分けられる。スマートシティプロジェクトでは、高解像度ビデオカメラやモーションセンサーなど様々なIoT機器を利用した公共安全の向上が図られている。自動運転車プロジェクトでは、電動無人シャトルバスの運行テストなどが実施されている。また、コネクテッドコリドー関連プロジェクトは、イノベーション地区内の道路の一部に、自動運転車をサポートする専用狭域通信(Dedicated Short Range Communications:DSRC)ユニットの設置が進められている。そして、オープンデータ関連プロジェクトには、ラスベガス市の区域別けマッピングツールといったソフトウェアの公開や、アプリケーション開発者向けに様々な行政データを提供するポータルサイトの運用などが含まれている。

イノベーション地区の産業パートナーには、テクノロジー大手Dell Technologies日立製作所NTTグループ、サンフランシスコに拠点を置く政府向け先進テクノロジーテスト用ソフトウェア開発スタートアップUrbanLeapなどがいる。Dell TechnologiesとNTTグループは、イノベーション地区の安全性向上に向けたスマートシティコンセプトの実証に取り組んでいる(7)ほか、日立製作所は、米国子会社Hitachi Vantaraを通じてイノベーション地区にスマートシティソリューションを提供している(8)。また同地区では、コミュニティパートナーとして、リノ市政府ノースラスベガス市政府などの地方自治体とも提携している(9)。

イノベーション地区でのスマートシティ技術開発の更なる前進に向け、ラスベガス市政府は2019年9月25日、スマートシティ関連企業のコワーキングスペースとして広さ1万1,000平方フィート(約1,022平方メートル)のラスベガス国際イノベーションセンター(IIC@V)をイノベーション地区内に開設した(10)。IIC@Vは、イノベーション地区内にある市役所から約800メートルの距離にある。同センターは、スタートアップ企業を含む民間企業全般が利用対象となっており、リース契約制のプライベートオフィス、オープンオフィス、会議室、ホットデスク(共有ワークステーション)、キッチンスペースなどで構成されている。施設は1日のうち何時でも利用出来るほか、Wi-Fi、駐車場も完備されており、ラスベガス市政府の職員が受付・サポート業務を行っている(11)。同センターの開設に伴いリース契約を交わした企業には、イノベーション地区の産業パートナーであるNTTグループや、スマートシティソリューション開発・スモールセルサービスに携わるスタートアップUbicquia(www.ubicquia.com)などが挙げられる(12)。IIC@Vのプライベートオフィスは、開設後数週間で、最大収容企業数10社に達したため、ラスベガス市政府は、約1マイル(1.6km)離れた場所にIIC@V2を開設することを発表した(13)。2020年8月には、薬剤開発スタートアップ企業HeligenicsがIIC@V2に入居している(14)。 

プライベート5G環境ですべての市民が恩恵を得られるスマートシティを目指す

イノベーション地区やIIC@Vで実施されているスマートシティ関連プロジェクトや実証実験に関して、ラスベガス市政府はプライベート5Gネットワークでサポートする計画を明かしている。同市のIT部門ディレクターのマイケル・シャーウッド氏(Michael Sherwood)は2020年1月、ラスベガスで開催された世界最大級の電子機器・テクノロジー見本市であるCESで、免許不要の周波数帯域(unlicensed spectrum)を使ったプライベート5Gネットワークの運用テストを同年8月までに実施する計画を明かした。ラスベガス市政府は、プライベート5Gネットワーク敷設に向け複数の民間企業パートナーと提携しており、通信機器の調達や敷設作業も独自で進めるとしている。シャーウッド氏は、プライベート5Gネットワークの利点として、5Gサービスを利用する経済的余裕がある裕福層が集中する地域の住民のみだけでなく、ネットワーク内に住む全ての市民が平等に恩恵を受けられる点を挙げており、「一般大衆を考慮せずにスマートシティとは呼べない」と語っている(15)。

このプライベート5Gネットワークは、イノベーション地区で運用テストが実施される予定であるが、スマートシティインフラ専用となるか、地域住人がモバイルサービスとして利用できるものになるかはこれまでのところ明らかにされていない。調査会社Gartner(www.gartner.com/en)上級アナリストのビル・メネゼス氏(Bill Menezes)は、プライベート5Gネットワークを展開することで、ラスベガス市政府は、通信事業者のパブリック5Gネットワーク導入を待つ必要なく、管轄地域のニーズに合わせてネットワークの導入場所や時期を決定できると述べている。また、同市政府はネットワーク上のデータへのアクセスや管理権限を持てるほか、通信事業者が有していない敷設権(right-of-way)を既に有しているといったメリットもあるとメネゼス氏は指摘しており、スマートシティ計画をより迅速に進めることができると予想している(16)。

なお、ラスベガス市政府によるプライベート5Gネットワークの運用テストについては、進捗状況が明らかになっておらず、新型コロナウイルス感染症問題による地域経済への大打撃の影響で計画が遅延している可能性もあるとみられる。こうした状況のなか、ラスベガス市政府がイノベーション地区に誘致したスタートアップ企業が、教育目的でプライベートLTE・5Gネットワークを導入するといった波及効果が出てきた。IIC@Vの初期テナントでスマートシティソリューション開発企業のUbicquiaは2020年9月、市民ブロードバンド無線システム(Citizens Broadband Radio Service:CBRS)で使用される3.5GHz帯(ミッドバンド)のLTE/5G通信をサポートするUbicquia製スモールセルプラットフォームUbimetroを、ラスベガス市を含むクラーク郡内でインターネットを利用できない世帯が多い学区に導入し、学区内のプライベートLTEネットワークを利用した遠隔学習を学生に提供していると明かした。Ubimetroプラットフォームは、近いうちにサブ6GHz帯の5G通信にも対応し、将来的には対象地域及び利用方法が限定的なミリ波帯の5G通信もサポートする予定である(17)。

参考記事(アクセス:2020年12月1日

参考統計(ネバダ州ラスベガス)

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