北米特集記事

5Gイノベーション:テキサス州ダラス (Dallas, TX)

執筆者 | 2020年10月9日 | 5Gイノベーション, 特集記事

テキサス州北部に位置する大都市ダラス(Dallas)では、ダラス市政府が主導する5G官民パートナーシップであるダラス・イノベーション・アライアンス(Dallas Innovation Alliance:DIA)が、2017年3月より、ダラス中心部4区画をパブリックWi-Fiや先進センサーなどを活用してスマートシティ化するプロジェクトDIA Smart Cities Living Lab(以下、Living Lab)を展開している。Living Labでの5G関連プロジェクトはまだこれからだが、米国5G市場競争のメインプレイヤーのひとつである通信大手AT&Tが、DIAにおける民間企業の中心的存在となっており、今後の取り組みが注目される地域である。そこで本稿では、ダラスの5Gを推進する「ダラス・イノベーション・アライアンス」の取組を概観する。

 

ダラスの5G官民パートナーシップ「ダラス・イノベーション・アライアンス(DIA)」のスマートシティビジョンとメンバーシップ

ダラス・イノベーション・アライアンス(DIA)は、ダラス市政府、民間企業、市民組織、非営利団体(NGO)、教育機関、個人の連合であり、非営利団体として2015年に設立された。DIAは、地域住民の生活の質を向上させ経済成長を促進するスマートシティの構築をミッションに掲げている。DIAのスマートシティ計画では、地域の特徴やニーズに沿った様々なプロジェクトを、複数の開発フェーズに分けて実施しようとしている。またDIAは、ダラス市政府が長年に亘って取り組んでいるスマートテクノロジー・インフラ関連プロジェクト/イニシアチブ(1)の成果やベストプラクティスを活用したいと考えており、その中には、スマート街頭プロジェクトや5G通信ネットワーク導入プロジェクト、オープンデータイニシアチブのDallas Open Data、マイクログリッドプロジェクトなどが含まれている(2)。

非営利団体のDIAだが、ダラス市政府が進めるスマートシティ計画において、中心的な役割が期待される組織のひとつに位置付けられている。例えば、ダラス市議会が2017年12月に承認したダラス市中心部開発計画「Downtown Dallas 360 Plan」の中では、DIAはスマートシティ技術とグリーンインフラの開発を主導する組織として、ダラス市政府と、ダラス中心部の開発推進団体Downtown Dallas Inc.と並んで指定されている(3)。また、ロックフェラー財団(Rockefeller Foundation)による100レジリエンス都市(100 Resilient Cities)のひとつとして、ダラス市政府が2018年8月に発表した100レジリエンス都市開発計画「Resilient Dallas」のなかでも、コミュニティインフラの開発に従事する主要パートナーとしてDIAの名が挙げられている(4)。こうした背景などから、DIAの設立資金の7割を市政府が、残りの3割を民間セクターが負担して設立された。手続きに時間がかかる行政機関ではなく、非営利団体としたことで、パイロットプロジェクトの立ち上げがスピーディになるため、テストから実用化までの時間が米国で最短のスマートシティプロジェクトが実現できるとDIAは謳っている(5)。

DIAの創立メンバーには、ダラス市政府以外にも、主要パートナーである米大手キャリアAT&T、通信機器大手Cisco Systems、スウェーデンの通信機器大手Ericsson、スマートメーター大手ItronIBMMicrosoftトヨタ自動車、Downtown Dallas Inc.、起業家を支援する非営利団体The Dallas Entrepreneur Center、ダラス商工会議所(The Dallas Regional Chamber)、テキサス州北部の産学連携を推進するTexas Research Allianceなどが含まれている。また、2019年に参加した新メンバーには、経営コンサルティング大手Accenture、金融大手Wells Fargo & Company、金融持株会社Capital One Financial Corporation、ダラスを拠点とするガールスカウトSTEM Center of Excellence at Camp Whispering Cedarsなどが挙げられる(6) 

なかでも、ダラスに本社を構えるAT&Tは、ダラス中心部のイノベーション地区化に向けダラス市政府と長年に亘り協力関係を築いてきた。同社は2016年10月、AT&T本社周辺をAT&T Discovery District(7)と称するアーバン・テクノロジーセンター街にすることでダラス市政府と合意しており(8)、一般市民向けのイベント会場、レストラン、ロビー、そして5GサービスやWi-Fiが利用できる広場などを提供している(9)。またAT&Tは、ダラスにおける5Gネットワーク構築に意欲的であり、2018年12月からモバイルホットスポット経由の接続に限定した5Gサービスを導入し、2020年6月末には一般向け5Gサービス(サブ6GHz帯:sub-6GHz 5G)を開始している(10)。

 

5G導入も構想されるマルチフェーズ・プロジェクト「Living Lab」の成果と最新動向

ダラスの5G官民パートナーシップ「ダラス・イノベーション・アライアンス(DIA)」が、ダラス中心部西端4区画におけるスマートシティプロジェクトの第1フェーズとして2017年3月に始動したLiving Labでは、AT&TのパブリックWi-Fiネットワークをベースに、スマートLED街頭、スマート水道メーター・漏水探知センサー、スマートパーキング、スマート公園、歩行者センサー、デジタル・インタラクティブ・キオスク(道案内、公共施設・交通機関案内など)といった複数のスマートシティプロジェクトが実施され、地域経済、省エネルギー・環境、公共安全に与える影響に関するデータが収集・分析された(11)。同プロジェクトは、ダラス市役所からも約1マイル(1.6km:徒歩約20分)に位置するDIA本部を中心に展開された(12)。DIAが2018年11月8日に発表した、第1フェーズの結果をまとめたケーススタディ報告書によると、スマートLED街頭の節電効果は約35%となり、センサー、カメラ、スモールセル(小型基地局)、パブリックWi-Fi、5G通信ネットワークなどを活用したスマートLED街頭は、全プロジェクト中で将来的に投資対効果が最も高くなる可能性が高いと分析している。また、スマート水道メーターやセンサーによる漏水探知の節水効果も16%となったほか、スマートパーキングにより無駄な交通量が減り、二酸化炭素の排出量が7~10%削減できることがわかった。DIAはLiving Labから得られたデータに基づき、ダラス市政府に対して、Living Labプロジェクトの規模拡大や、同市にとって有益かつ民間投資の魅力的な対象となり得るプロジェクトの特定などを通じ、これまでの関連投資が将来的に市のコスト削減や新たな財源獲得に結びつくような方向性を目指していくよう提言している(13)。

また第2フェーズについて、DIAはモビリティ、デジタルデバイド(情報格差)、公共安全に焦点を置いた2019年の計画に基づき、2020年前半からその一部を実行に移していくという方針を発表している(2020年1月17日付けリリース)(14)。

他方、DIAは2019年2月、AT&TやCisco Systems、Microsoft、テキサス大学ダラス校、DECと共に、ダラスでのスマートシティ技術の研究開発を推進するためのインキュベーターInnov8te Smart Cities Incubatorを設立した(15)。Innov8teでは同年5月に、スマートシティ技術の実用化を目指す起業家やスタートアップ企業の支援グループ第1弾が発表された。各社はダラスが直面する課題解決に資するソリューション開発に取り組む。あわせて、創立メンバー組織と支援グループの交流場所となるStartup City Hallも開設された(16)。

DIAはまた、2020年5月29日、テキサス州北部に全米で最もスマートな地域を構築することを目的としたノーステキサス・イノベーション・アライアンス(North Texas Innovation Alliance:NTXIA)の創立メンバーのひとつとして、この同盟を立ち上げた。NTXIAにはDIA以外にも、ダラス商工会議所、フォートワース商工会議所(Fort Worth Chamber of Commerce)、マッキニー経済開発公社(McKinney Economic Development Corporation)などテキサス州北部を代表する20組織が参加しており、市政府の境界線を超えたスマートシティ構築を目指し、データ標準化、プライバシー、サイバーセキュリティ、デジタルインクルージョン、金融モデル、調達といった複雑な問題に、戦略的諮問委員会の設立を通じて取り組む構えである(17)。

 

出典(アクセス:2020年9月30日)

  1. https://dallascityhall.com/departments/ciservices/smart-cities/Pages/smart-domains.aspx
  2. http://www.dallasinnovationalliance.com/what-we-do
  3. https://dallascityhall.com/departments/pnv/Documents/The360Plan_CouncilAdopted_1.2.18_WithResolution.pdf
  4. https://dallascityhall.com/departments/pnv/resilient_dallas/Pages/default.aspx  (要ダウンロード)
  5. https://static1.squarespace.com/static/55e72848e4b07d5e3db159f8/t/5be1eb816d2a73056cd37c9f/1541532574863/DIA+Living+Lab+Case+Study.pdf
  6. http://www.dallasinnovationalliance.com/partners
  7. https://discoverydistrict.att.com/
  8. https://about.att.com/story/att_discovery_district.html
  9. https://discoverydistrict.att.com/
  10. https://www.dallasnews.com/business/technology/2020/06/29/att-launches-5g-coverage-in-dallas-austin-and-26-other-markets/
  11. https://static1.squarespace.com/static/55e72848e4b07d5e3db159f8/t/5be1eb816d2a73056cd37c9f/1541532574863/DIA+Living+Lab+Case+Study.pdf
  12. https://www.google.com/maps/dir/311+N+Market+St+%23200,+Dallas,+TX+75202/Dallas+City+Hall,+1500+Marilla+St,+Dallas,+TX+75201/
  13. https://static1.squarespace.com/static/55e72848e4b07d5e3db159f8/t/5be1eb816d2a73056cd37c9f/1541532574863/DIA+Living+Lab+Case+Study.pdf
  14. http://www.dallasinnovationalliance.com/news/2020/1/16/vcgk9m3d115gb680n3r816unbj9sxe
  15. http://www.dallasinnovationalliance.com/innov8te-smart-cities-incubator
  16. https://www.smartcitiesworld.net/news/news/dallas-smart-cities-incubator-announces-first-cohort-4203
  17. http://www.dallasinnovationalliance.com/news/2020/5/25/north-texas-innovation-alliance-consortium-launches-to-create-the-most-connected-smart-and-resilient-region-in-the-country

北米最新特集記事

市民の足を支えるIoT事業から考える、 横浜で働くこと

市民の足を支えるIoT事業から考える、 横浜で働くこと

日本有数のビジネス都市、横浜。 開港以来、文明開化の中心地として繁栄し、鉄道や水道など“横浜発祥”と言われる技術が数多く生まれ、多くの技術・文化を受け入れ発信してきました。近年では、大企業の本社および研究開発拠点が多数集まるなど、ビジネス都市としてさらなる発展を遂げています。...

タイ国バンコク都との都市間協力を推進しています。

タイ国バンコク都との都市間協力を推進しています。

横浜市は都市づくりの経験・ノウハウと企業の技術を活用し、新興国等の都市課題解決の支援と企業の海外展開支援を目的とした「横浜の資源・技術を活用した公民連携による国際技術協力(Y-PORT事業)」に取り組んでいます。 本稿では、タイ・バンコク都との都市間連携を特集します。...

ニューヨークの気候テック・イニシアティブ②:ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)のスタートアップ支援

ニューヨークの気候テック・イニシアティブ②:ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)のスタートアップ支援

ニューヨークでは、州全体のクリーンエネルギー推進や気候テックスタートアップ支援において、州によって設立された公益法人ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)が大きな役割を果たしている。また、ボストンで重層的な気候テック支援環境が見られるように、ニューヨークにおいてもNYSERDAだけでな...

ニューヨークの気候テック・イニシアチブ① :ニューヨーク市の気候ソリューションセンター計画

ニューヨークの気候テック・イニシアチブ① :ニューヨーク市の気候ソリューションセンター計画

ニューヨーク市政府は、気候変動の危機に対応するグローバルリーダーとなることを目指し、脱炭素政策に取り組んでいる。ニューヨークの脱炭素に向けた取り組みの中で気候テック・エコシステムにかかる代表的なイニシアチブが、ニューヨーク市マンハッタンに属するガバナーズ島の気候ソリューションセンター(Center...

ボストンの気候テック・エコシステム⑤:気候テック・スタートアップへの重層的な支援

ボストンの気候テック・エコシステム⑤:気候テック・スタートアップへの重層的な支援

前項まで、ボストンの気候テック・エコシステムの主要なハブとして、グリーンタウン・ラボ、MIT、マサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センターを取り上げてきたが、ボストンを中心にマサチューセッツ州内には、気候テック・スタートアップを支えるまだまだ多くの支援機関やプログラムが存在する。【インキュベータ...

市民の足を支えるIoT事業から考える、 横浜で働くこと

市民の足を支えるIoT事業から考える、 横浜で働くこと

日本有数のビジネス都市、横浜。 開港以来、文明開化の中心地として繁栄し、鉄道や水道など“横浜発祥”と言われる技術が数多く生まれ、多くの技術・文化を受け入れ発信してきました。近年では、大企業の本社および研究開発拠点が多数集まるなど、ビジネス都市としてさらなる発展を遂げています。...